第4話 お姉様と特別な依頼
「特別なクエスト......なんだそりゃ」
「まずはこれを見てちょうだい」
セラスがパチンと指を鳴らすと、黒子のような召使いが奥から何か宝石のようなものを持ってくる。
よく見ると、それは橢円形をした金色のブローチで、真ん中に見たこともないほど大きなサファイアがはめ込まれていた。
「ブローチ?」
モアが目の前の豪勢なブローチに目を輝かせる。
「わー、お姉様、綺麗ね!」
「ああ。でっけーな」
少なくとも俺は、こんな大きなサファイア、今まで見たことがない。
それにサファイア周りを飾る装飾も細かく、珊瑚、真珠、ダイヤモンドといかにも高そうだ。
「このブローチは我が家に代々伝わる家宝で、実はこのサファイアのブローチは元々二つあって、もう一つの方には同じ大きさのピンクサファイアがはめこまれていたの」
セラスが悲しげに目を伏せる。
「でもある時、ピンクサファイアのほうのブローチが盗まれてしまって」
「盗まれた? この城から?」
セラスは首を横に振る。
「いえ、アレスシアで行われる式典で着けるために船で輸送中だったのだけど、そこを海賊船に襲われてしまって」
こんな綺麗でのどかな場所にも海賊なんて出るんだな。
「......なるほど。それを取り戻して欲しいってわけだな」
「ええ」
セラスは頷く。
「で、ブローチを盗んだ海賊ってのは?」
セラスは神妙な顔で手配書を俺に渡してくる。
「どれどれ......」
そこには青い髪で眼帯をした目付きの悪い女性の姿が描かれていた。下には「海賊グレイス・クロス」の文字。
「こいつが海賊の頭領か」
「なんだか怖そうだね」
モアも横から手配書を覗き見る。
「そこであなた達にはグレイス海賊船に潜入してブローチを取り戻して欲しいの」
海賊船に......潜入!?
「お姉様......」
モアが心配そうに見やる。
「大丈夫だ、モア」
俺はモアの頭を撫でた。
「分かった。依頼は受ける」
「そう。ありがとう」
ニッコリと笑うセラス。
「もし、無事ブローチを取り戻したら、レオ様――エリス国王にはあなた達が来たことは黙っておいてあげる。それに、この国に出入国する際に色々と便宜を図ってあげてもいいわ。どうかしら?」
「ああ。ありがとな」
俺はやる気だった。実家に連れ戻されないためにもセラスのためにも。
それに何より――「海賊船」その響きだけで、何だかワクワクが止まらないのであった。
俺は拳を振り上げた。
「いざ、海賊船!!」
*
「海賊船に潜入......とは言ったもののどうやって潜入しよう」
俺たちがブラブラとイカ焼きを食べながら近くの海岸沿いを歩いていると、ヌッとモアの影から鏡の悪魔が出てくる。
「どうも妙じゃな」
「妙って何がだよ」
俺は声を潜め、辺りを見回した。モアの影から悪魔が出てくるところを誰かに見られたら大変だ。
「......いや、思い過ごしかもしれん」
「何だよ、ハッキリ言えよ」
「いや、犯人が分かっているのならば、海軍でも送り込んですぐにでも取り戻せばいい物を、何故我々に頼むなどという回りくどいことをするのかと思ってな」
「それはそうだね。でも、受けちゃったからにはやるしかないし......わー、この貝殻大きい! このヒトデも!」
どうやらこの地域の生き物は巨大な物が多いらしい。人間の両腕の長さと同じくらいの巨大ヒトデを指差し笑うモア。
美しいブルーの瞳。潮風になびくふわふわの銀髪。モアは本当に海が似合うなあ。絵になるってもんだぜ。俺は思わずうっとりしてしまう。
「あ、ねぇねぇそれよりお姉様、あそこに水着屋さんがあるよ! 一緒に水着を買って泳ごうよ~!」
モアの指さす先には白い壁にハイビスカスの花が描かれた可愛い小さな水着ショップがあった。
「水着!?」
水着......モ、モアの水着姿......!?
頭の中に紺色のスク水姿のモアが思い浮かぶ。勿論胸には「もあ」の名札つき。ああ、なんて可愛い......!
いかんいかん。
ブンブンと頭を振って妄想を吹き飛ばす。
「お、お姉様......どうしたの?」
「何やらヨダレが垂れておるが」
「い、いや、何でもないぜ!」
俺は口の端のヨダレを拭った。
いやでも、ここは海だし、誰にモアの可愛い水着を見られるか分かったもんじゃない。
もし変なロリコンにモアの水着姿を見られでもしたら......駄目だ駄目だ!
モアの可愛い水着姿をその辺の男どもに晒すだなんて絶対に駄目だ!
「駄目だぞモア。モアの可愛い水着姿を他の男に見られたりしたら......」
「えーっ、でも、モア海で泳ぎたい」
口をへの字にするモア。
「遊びに来てるんじゃないんだぞ!」
「じゃがお姉様」
鏡の悪魔が口を挟む。
「砂浜に来ているのに水着を着ていないというのは不自然じゃ。海賊どもに狙いがバレてしまうぞ」
「そ、そっか」
俺たちがこの浜辺に来た目的は海水浴では無い。この浜辺で海賊の目撃情報が多いから、例の女海賊に近づくために来ているのだ。
「タダでさえガバガバの作戦じゃのに、そんな事でどうする」
「悪かったな、ガバガバの作戦で」
いざとなったら大抵のことは腕力で何とかなるんだよ!
「さ、水着ショップへレッツゴー!」
俺の腕を引っ張って走るモア。笑顔が太陽のように輝く。
......ああ、可愛い! ただでさえ可愛いモアが水着だなんて、たまらん!
という訳で、俺たちは水着ショップへと走ったのだった。
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