第5話 お姉様と水着


「見て見て、お姉様、この水着可愛い~!」


 モアが水着ショップではしゃぐ。

 手にしているのは、ピンク色のフリルのついたビキニだ。


「駄目だ駄目だ、そんなの派手すぎるし腹が冷える! こっちにしろ!」


 俺は紺色のスク水っぽい水着をチョイスし、モアに渡す。


 モアはぷぅ、と頬を膨らませる。


「ええ~、なんか地味だよ!」


「いいんだよ、モアは子供なんだから地味で」


「モア、子供じゃないもん!」


「じゃあ、せめてこっち......」


 俺は紺色に青のラインが入った競泳水着っぽいのをチョイスする。


「お姉様ったら、何でさっきから紺色ばっかりなの? モア、濃い色あんまり似合わない!」


「そ、それは......いや、アハハハハ」


 や、ヤバい。俺のフェチがバレた!?


「それよりお姉様はどうするの?」


「俺は適当でいいよ」


「ダメーっ! モアが選ぶ!」


 モアがルンルンと俺の水着を選んでくれる。

 モアが選んだのは白地に黄緑のリボンがついた水着だった。


「うーん、白か。透けないかな?」


「大丈夫だよぉ、ちゃんと裏地ついてるから」


「なんか紐パンみたいになってるけど解けない?」


「飾り紐だから大丈夫だよ。解けない構造になってるの!」


 試着してみたが、確かに似合う。うーん、俺ってば何でも似合っちゃう。


 試着室に入り暫くクルクルと自分の体を眺める俺。その時、俺は重大な事実に気がついた。


「あれ......俺、ちょっと太った?」


 思えば近頃馬車で移動ばっかりだし、ご飯も健康に気を使った宮廷の料理じゃなくて、唐揚げとか肉とか安くて量の多い飯ばっかりだったからな。


 腹と尻の肉を少しつまんで確認していると、モアが声をかける。


「お姉様ー、試着済んだ?」


「あ、ああ」


 カーテンが開けられる。水着姿を見たモアの顔が輝いた。


「やーん、お姉様可愛いー!!」


 俺の腰に手を回して抱きついてくるモア。


「モア!」


 俺はそんなモアを引き剥がした。


「お......お姉様? モア、何かお姉様の気に障ることでも......」


 不安そうな顔をするモア。


「モア、俺......ちょっと太った?」


 キョトンとした顔をするモア。


「うーん、そう言われればそうかもしれないけど......でも言われないと分からないし、元々がナイスバディーすぎたから、ちょっとぐらい肉がついた方がセクシーだとモアは思うなあ」


 モアは首をこてん、と傾ける。


 要するに......太ったってことだろ! うわーん!!


「はは......ダイエットしないとな」


「お姉様? お姉様ーっ!? なんか目が虚ろだよ?」


 結局俺は、白の水着を買い、モアはピンク色のワンピースっぽい水着を買った。


「見てお姉様」


 モアに言われ、水着についていたタグを見る。そこには「防御力アップ、魔力アップ」と書かれている。


「おお、こんな効果が」


「海のモンスターに襲われたりしたら大変だもんね」


 確かに。でも魔力アップか。俺は魔法なんて使わねーから攻撃力アップが良かったな。

 良く見ると、モアの水着にも似たような効果が書いてある。


「ビキニアーマーみたいなもんかね」


 ペラペラの布だし、ビキニアーマーより更に防御力は低そうだが無いよりはましか。



 早速買った水着に着替え、浜辺をブラブラする。


「さてと、海賊は出るかなーっと」


「そうじゃな」


 鏡の悪魔の声に、俺は振り向く。


「あれっ、鏡ちゃん!?」


 見ると、鏡の悪魔は俺たちに合わせたのかいつの間にか水着姿になっている。


 魔法で姿を変えたのだろうか。いや、それはそれで構わないんだけど、その水着というのが......


「か、鏡ちゃん、かなりダイタンだね......?」


 モアの目が点になる。


 それもそのはず、鏡の悪魔が身にまとっていたのは、胸と下半身に申し訳程度に紫色の布はあるものの、残りは全部紐、みたいな水着だったのだ。


 ぶっちゃけ後ろから見るとほぼ裸に見える。


「いやいや、流石にそれは児童ポルノ法に引っかかる......」


「誰が児童じゃ。妾をいくつだと思っておる。それにこの世界にはそんな法律は無いぞ」


 もしかしてこれが、世にいう「合法ロリ」という奴なのだろうか。

 というか、誰も見てないからって張り切りすぎでは無かろうか。


「......しかし、この格好に武器は合わんなあ」


 俺は水着のまま斧を持ち上げた。ベルトで固定して背中に背負うことも出来ないし不便だ。


「ああ、それなら」


 鏡の悪魔がパチンと指を鳴らす。

 すると俺の手から斧が消え失せた。


「あ、あれっ!?」


「慌て無くても大丈夫じゃ。使う時は『斧よ来い』と頭の中で念じればすぐに取り出せる。消す時は逆に『斧よ消えろ』じゃ」


 言われた通り頭の中で「斧よ来い」と念じると、一瞬の内に斧が俺の手の中に戻ってくる。


「何て便利な」


 しげしげと斧を見つめる。心地よい重み。これでいつでも好きな時に武器を取り出せるわけだ。


「モアのも!」


「よし、モアの杖も消してやろう」


「わー、本当に消えた!」


 大喜びで杖を消したり出したりするモア。


 でももしかしてこれ、モアの魔力を吸い上げてやってるのか? だとしたらあまり乱用したらまずいんじゃ。


「まあ、普段はそんなに使わないだろうし、消しておくか」


 俺は斧を消した。

 と、同時に、空を切り裂く悲鳴が砂浜に響いた。


「キャーッ!!」


 俺たちは顔を見合わせた。


「女の人の悲鳴?」


「行ってみようよ!」


 悲鳴をした方へ、砂浜を駆け抜ける。


「な......なんだありゃあ!?」


 見えてきたのは、巨大なうねる吸盤のついた脚。


「......タコ?」


 そこに居たのは、見たことがないほど巨大なタコだった。


 まさか、いきなり戦闘!?

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