20.お姉様と関所
「さて、ここを抜ければフェリルだ」
隣国フェリルへと抜ける関所にたどり着いたのは翌朝だった。
俺たちが隣国、それもフェリルを目指すのには理由がある。
まずはアオイに貰った名刺の店『始まりの酒場ロゼ』に行くため。
それから冒険者になるにも、ここエリスよりもフェリルのほうが冒険者協会の規模が大きいため、依頼やクエストをこなすにしても、仲間を探すにしてもやりやすいこと。
そして、いつまでも国内に留まっていたらいつ爺やや兄さんに見つかるかわからない、そんな理由で、俺達は国境を超えるべく国境近くの町に来ていた。
「いてててて......」
「お姉さま、大丈夫ー?」
俺は背中と腰を押さえた。
クソッ! 宿代をケチって安い宿に泊まったのが悪かった。背中が痛いのなんのッて!
「関所を通る方はこちらに一列にならんでくださーい!」
若い兵士が大声で呼びかけるが、その声は大勢の群衆の声でかき消される。
関所の前には大勢の市民が押しかけていたのだ。
「最後尾はこの辺かな」
とりあえず俺たちは列の最後尾と思しき所に並ぶ。
「どうしてこんなに混んでるんですか?」
前に並んでいた老婆に尋ねてみる。
「おや、あんた達知らないのかい? 2週間後に年に一度の『薔薇祭り』がフェリルであるんだよ」
「祭りは2週間後なのに今からフェリルに行くんですか?」
「早く行って場所取りしないといい場所は取られちまうし、宿も埋まっちまうからね」
「そうなんですねー」
すると、俺の腕をふいにモアが引っ張った。
「お姉さま、ちょっとこれ見て!」
モアが指さしたのは、関所の壁に貼られた手配書だった。
『城から行方不明になった二人の姫を見つけた者に報酬100万エリ』
俺たちじゃねーか、これ!
100万エリといえば、庶民の年収の約3倍。
これを見た国境の住人は血眼になって俺たちを探すだろう。
似顔絵なので微妙に似てないが、金髪と銀髪の若い女の子2人組というだけで疑われるのに充分だ。
「おそらく爺やか兄さんのしわざか......? 参ったな」
とりあえず俺たちは列を抜けた。このまま関所を通れば確実に見つかる。
悩んだ末、俺は町の市場で帽子を買い、髪を三つ編みにして伊達眼鏡をかけた。
モアの銀髪もかなり目立つので茶色のウィッグを買い麦わら帽子をかぶる。
うーん、茶髪になったモアも可愛い!
「これでなんとか国境を抜けられるといいが」
改めて関所の列に並ぶ。この国エリスは国の周囲を塀でぐるりと囲っているので関所を通らなくては隣国に行けない。ここはなんとか無事に通り抜けたいところだ。
一時間後、やっとのことで順番が回ってくる。
「はい、次の方、身分証明書を見せて」
髭を蓄えた兵士が俺たちに尋ねる。
「へ!?」
しまったー! 身分証明書!
よく考えれば分かることなのに、身分証明書を用意するのをすっかり忘れていた。
「え......えーと、その、家に忘れてきて」
しどろもどろになる俺を訝しげな顔で兵士は見やる。
ど、どうしようー!!
すると聞き覚えのある声が後ろから降ってきた。
「どうしたの? 先がつかえているけど」
「ハッ! お嬢様、すみません、この二人がどうも怪しいもので」
兵士が姿勢を正す。
振り返ると、そこには栗色のボブカットに、はち切れんばかりのスイカバスト。
「マロン!?」
立っていたのは、昨日ルーラの屋敷で一緒だったマロンであった。
*
「よしっ......と。ここなら誰も来ないと思う」
俺たちはマロンと共に、関所内にある取調室にやってきた。
聞けば、マロンは国境沿いのこの町の領主の娘で、マロンの兄さんは関所の長官も務めているのだという。
「びっくりしたわ。まさかあなた達が手配書のお姫様だなんて......」
うっとりした目で俺を見つめて手を握ってくるマロン。うう......顔が近い!
「姫様はやめろって」
俺が言うと、マロンは少し頬を染めて言った。
「じゃ、じゃあ、私もお姉さまとお呼びしますわ。お姉さま♡」
なんでそうなるんだろう。……まあ、いいか。
だがモアは不満げ目で俺を見てくる。な、なんだよ、俺のせいじゃないってば!
「なあマロン、ところで何とかしてこの関所を抜けれないかな?」
俺がドギマギしながら尋ねると、マロンは胸を張りきっぱりとした口調で言った。
「方法はあるわ。私に任せて」
「ありがとう、助かるぜ、マロン」
「わーい! やったね、お姉さま!」
俺とモアが手を取り喜んでいると、ゴホンとマロンが咳払いをする。
「ただし、条件があるの」
上目遣いで見つめるマロン。
「え? 何だ? 金なら――」
マロンはもったいぶった顔をして顔を赤らめモジモジとすると、フフフ、と笑った。
「違うわ。私にキスしてほしいの。ね? 簡単でしょ?」
頬を赤らめて身をよじるマロン。ぷるんぷるんと豊満なバストが揺れる。
キ、キ、キス......だあ!?
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