19.お姉様とスイカバスト


「ルーラ! こっちを見なさい!」


 マロンが立ち上がる。頼む。うまいこと相手を引き付けてくれよな!


「んあ!?」


 ルーラの視線がマロンに行く。そしてマロンはそのまま、勢い良くシャツの前をはだけた。


「よく見なさい!! これが、スイカと同じサイズのバストよ!!」


 垂直跳びをしてボインボインとバストを揺らすマロン。


「ぬおーーっ!!」


 ルーラが興奮して声を上げる。


 いやいや! 確かにルーラの気は引き付けてるけど......それでいいのか!?


「ま、いっか」


 俺はすっかりマロンの乳に夢中になっているルーラの手を蹴りあげた。

 カランカラン、と地面に転がるナイフ。


「し......しまった!」


 この隙に、モアは機敏な仕草でルーラの腕から逃げる。


「あ、待てこら!」


「いかせねーよ!!」


 モアを追いかけようとするルーラを遮ると、俺は回し蹴りを放った。


「ぐっ」


 膝をつき、苦しげにうめくものの、なんとか堪えるルーラ。ちっ、相変わらず脂肪の塊が邪魔をする。ちょっと浅かったか。


「じゃあ、これはどうだ!」


 俺はうずくまったルーラに踵落としを決めてやった。

 体は脂肪の塊で技の威力を吸収されてしまうが、流石に頭への守りは薄かったらしい。これが決め手になり、ルーラは気を失い動かなくなる。


「うっし☆ 決まったぜ!」


「お姉さますごーい!!」


 俺がウインクすると、モアが大喜びで拍手をした。


「良かったです......!」


 マロンも目をハンカチで押さえ涙ぐんでいる。


「マロンも、ありがとう。よく頑張った」


 俺がマロンの肩に手をやり微笑むと、マロンの顔は見る見るうちに真っ赤になった。


「いっ......いえ! あ、あ、あれぐらい、何ともないですっ!」


 パッ、と俺から離れるマロン。


「いやだわ......私ったら......女の人相手にこんな......」


 その様子を見ていたモアが、ぷう、と頬を膨らませる。


「もう! お姉さまったら、また女の子をたらし込んでー!」


「たらし込んでねーよ!」


 何故か必死に弁解する俺。

 まあ、いくら女の子をたらし込んでも、俺は女だから女の子と結ばれることは出来ないんだがな! 悲しいぜ! ああ......なんで女なんかに生まれたんだか。まあ、ぼいんぼいんのバストが見れたからいいかな。





 俺はルーラとガントを縄で縛ると、伝書鳩に警察への救援依頼をつけて放った。


「さて、女の子たちも開放したし、警察が来る前に金目のものでも漁っておくか」


「うんっ!」


 ちなみにだが、俺たちが王宮から持ってきた資金は全て盗まれてる。

 だが屋敷中を探し回ってもそれらしきものは全く見つからない。

 もしかして、俺たちの荷物や財布は食堂で出会ったあのチャラ男たちに盗まれたのだろうか?


「クソッ! お気に入りの財布だったのに!」


 俺は縄でグルグル巻きにされたルーラの胸元をまさぐると、金ピカに光る悪趣味なルーラの財布を抜き取った。


「しょうがない、これを旅の資金にするか」


「足りるかな?」


 モアが心配そうに、札束を数える俺の様子をのぞき込む。


「......そうだなあ。念のため、指輪とか貴金属も剥ぎ取っておくか」


 俺はルーラの指から、悪趣味極まりないどでかいダイヤやルビーの指輪を抜き取った。こいつ、男の癖に何個指輪してんだよ!


「こんな古い指輪まで」


 それは古びた銅の指輪だった。他の指輪に比べて地味で錆び付いたその指輪は、上部に悪魔のような怪しげなデザインをしている。他の指輪とは少し趣が違う感じだ。

 モアは、その指輪を見てビクリと身を震わせる。


「......どうしたんだ? モア」


 動きを止めたモアに俺が尋ねるとモアは指輪を見て眉をしかめた。


「お姉さま、そんな悪趣味な指輪を持っていくのはやめようよ~。モア、なんだか怖い」


「えっ? そうかあ? 俺は気に入ったよ、これ」


 俺は指輪を自分の右手の人差し指にはめた。


「えっ? それ、指につけるの?」


 モアが驚いたように聞いてくる。


「ああ。そんなに派手じゃないし、中々パンクで格好良いって思ってさ」


「パンク......?」


「あ、いや、ちょい悪な感じ? みたいな」


 俺は指輪をはめた手を目の前にかざした。

 うん、格好良い。実は向こうの世界にいた時は髑髏のついた指輪とか十字架のチョーカーとか集めてたんだよな。だからこういう中二病的なアイテムって凄くワクワクするんだ。


「ふーん……まあ、お姉さまがそこまで言うなら」


 モアは納得してないようだが、俺はこの指輪が気に入ってしまったのでウキウキとこの戦利品を眺めた。


 その時であった。どこからか強い視線を感じたのは。

 すぐさま振り向いて辺りを確認するも、周りには誰もいない。


「どうしたの? お姉さま......」


「......いや、気のせいか」


 今、確かに誰かに見られていたような気がしたんだけど......きっと気のせいだな!







「あの、ありがとうございました!」


 マロンが頭を下げる。


「本当にもう行ってしまわれるのですか? もしよろしければ、家に招待いたしますので、少し休んでいかれては」


 折角の招きだが、一刻も早く隣国に行きたいし、警察が来たりしてボロがでて正体も大変だ。


「いや、先を急ぐんで」


「そうですか......」


 俺が断ると、マロンは残念そうな顔をした。


「いいわよ! 早く行きましょう、お姉さま!」


 ふくれっ面をするモア。一体どうしたんだ、さっきから。



 そうして、俺とモアは、マロンに見送られ、ルーラの家から盗んだ馬にそれぞれ跨り、颯爽と大きな一本道を走って行った。


 「......あ~あ、ずいぶん身軽になっちまったなあ!」


「でもモア、凄く楽しかった!」


 モアがウキウキした顔で言う。


「あのなあ、一応大ピンチだったんだぞ?」


 俺はため息をついた。もしかすると、モアは俺よりもずっと大物なのかもしれない。


 この道をまっすぐ行けば関所のある街に着く。関所を越えれば、そこはまだ見ぬ土地。冒険者の聖地、木の都フェリルが俺たちを待っているのだ。





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