18.お姉様と美脚バトル
自慢の美脚で蹴りを食らわせると、ルーラの巨体が吹っ飛び、壁にめり込む。
「さっ、今の隙に」
俺はモアとマロンを逃がそうとした......が。
「ふう~酷いことをする。お腹の脂肪が厚くて助かったわい」
蹴りを食らったルーラは平気な顔をして立ち上がったではないか。パンパン、と体にかかった瓦礫を払うルーラ。なんてしぶとい! もっと強く蹴ればよかったのか。人間相手だと加減が難しい。
「ちっ、しぶといヤツ!」
ルーラは、壁際をよろよろと這って歩くと、机の上の見慣れない機械に向かってこう叫んだ。
「ガント! 緊急事態だ! 来てくれ!」
その機械には見覚えがあった。遠隔会話の魔法道具だ。王宮や役所には置いてあるが、個人で持っているのはおそらく珍しい。本当に金持ちなんだな。
程なくして、斧を持ったモヒカンの大男が部屋に現れた。
「呼んだか? 兄貴」
モヒカン男の姿を見て、ルーラは手をたたいて喜ぶ。
「おお! よく来た! この小娘を殺さない程度に痛めつけてほしいんだよ!」
「了解だぜ」
モヒカンは斧をブンブンと勢い良く回して俺にこう言った。
「おい女、あんたも少しは腕に覚えがあるみてぇだが、岩をも砕くこのブラックアックスの威力に比べたらただの子供よ」
俺はガントの斧をチラリと見た。
「確かに、重そうだし、威力はあるかもなー」
そしてにやりと笑う。
「もし当てられたら、の話だけどな!」
「このガキ……!」
ガントが勢いよく斧を振り下ろす。空を切る重い音。
だが――遅い。
俺はそれを屈みながら避けると、足元に蹴りを食らわせた。
足元を掬われよろめくガント。 そこへさらに脇腹への強烈な一撃を食らわせる。
「ぐはっ!」
しかし、ガントは倒れない。フラフラとしながら血走った目でこちらを見ている。
「おのれ小娘......!」
「おお、まだ生きてたか? 体が大きいからしぶといのかな?」
首を捻ると、ガントは怒り心頭で斧を振り回す。
「舐めるなよ! このクソガキ!」
俺がひょいと避けると、斧は屋敷の柱に思い切り刺さり押しても引いても動かなくなってしまう。
「おっとぉ? これはチャーンス!」
俺はガントの後ろに素早く回り込むと、その勢いのまま回し蹴りを放った。
「くらえ、下種が!」
ドン、と言う心地よい音。本当は後頭部を狙ったのだが、相手がデカいため背中に当たってしまう。それでも、いい感触があった。
「ぐあっ!!!」
ガントの巨体はどさりと床に崩れ落ちた。
「ぐわぁっ!」
ゴリラの様な巨体を震わせ、うずくまるガント。
するとルーラが叫んだ。
「そこまでだ! 動くな! 動くとこいつを殺してやるぞ!」
見るとルーラはモアの首筋にナイフをあて、人質としているではないか。
「お姉さまーっ!」
「クソッ! 卑怯だぞ! モアを人質にとるなんて!」
「ふん、構うもんか、どうせ体以外なんの取り柄もない女共だ。それをわしを癒すことで社会貢献させてやるんだから感謝してほしいくらいだ」
なっ、なんて失礼なやつ! モアはお前の数百倍も数千倍も価値があるっての! モアに比べたら、お前なんか馬のフンだぞ!
「ふっふっふ、さてもっと護衛を呼んでやるか。そうしたらお前たちももう終わりだ!」
脂汗をまき散らしながら叫ぶルーラ。
「お姉さま! そのままこいつをモアごと蹴り飛ばして! モアのことは気にしなくていいからー!」
モアが叫ぶ。何て健気な!
......って、そんなこと出来るわけないだろうがっ!!
すると、目の端で何か黒い影が動いた。マロンだ。机の下に隠れてる。まだ逃げて無かったのか。
マロンにどうにかしてルーラの気を引き付けてもらえないだろうか? 一秒でいい。少しでもルーラが気を逸らしてくれれば、その隙に俺がモアを助けるんだが......
俺はマロンに目で合図した。伝わるか? マロンはコクリと頷く。よし。上手くやってくれよな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます