14.お姉様と事件解決

 あの後グンジおじさんは捕らえられ、牢に入れられた。おそらく一生出てこれないだろう。死刑にならなかっただけでも幸運だ。


「いや~、4人とも、よくやってくれた!」


 レオ兄さんが、満面の笑みで迎えてくれる。全く、自分は宮殿から出ずに安全な場所にいたくせに、呑気だよなあ。


「アビーも活躍したんだって?」


 兄さんが尋ねるとアビゲイル義姉さんは顔を真っ赤にした。


「いえ、全てはミア姫の活躍によるものですわ」


「またまた~! 聞いたぞ? こう、ボンテージで女王様で鞭でビシバシやったのだろう!? ああー、俺も見てみたかったなあ」


 目を輝かせるレオ兄さんに、爺やとモアが首を傾げた。


「ムチ……?」

「女王様??」


 そういえば、この二人はあの姿を見てないんだもんな。

 すると真っ赤な顔をしたアビゲイル姉さんが、ごほん、と咳払いをする。


「後でじっくり披露いたしますわ」


 にっこりと笑うアビゲイル姉さん。しかし、その瞳は笑っていない。ヒイッ! 座ってるよ! 姉さん、目が座ってる!!


「あ……なんだろう、その冷たい目、すごくゾクゾクする!」


 でもレオ兄さんは何だか喜んでいるみたい。ある意味、良かったのか?


「モアを置いてみんなで楽しそうなことをしてたんだ。ずるーい!」


 モアがむくれる。


「だって、危ないじゃないか。もしモアが怪我でもしたら」

 

「やだーモアも冒険行きたい」 


 完全に拗ねるモアに、兄さんは苦笑した。


「まあまあ......そうだ、4人には何か褒美をやろうと思うのだが、どうだ? ミア、何か欲しいものはないか?」


 褒美かあ。っつっても、欲しいものはここにいたら大体手に入るしなー。俺は頭を掻きながら答えた。


「いや、特には……しいて言うなら冒険の旅に出たいっつーか」


「なりませぬ!」


 顔を真っ赤にして即答する爺や。分かった、分かった。苦笑するアオイとヒイロ。それを見た俺の頭に名案が浮かんだ。


「ならさ、アオイとヒイロと一緒ならどうだ? 一人でじゃなくて、誰かと一緒なら危なくないだろ?」


 ヒイロはため息をつく。


「残念だけど、あんたを一緒に連れていくことはできない。次のクエストの予定がもう入ってるし、そのクエストはかなり難しいものになる予定だし。そもそも冒険者登録もしてない人を連れていけない」


「そうなのか」


 聞いたことがある。冒険者になるには冒険者登録が必要だって。でも、それってどうやって登録するんだろう。


 俺がヒイロに尋ねようとした時、レオ兄さんが顔を真っ赤にして反対した。


「そうだそうだ、絶対にダメだ!


 だが今度はレオ兄さんが顔を真っ赤にして反対する。


「それは絶対にダメだ!」


「えー? なんでそんなに反対するんだよ」


「駄・目・だ! ミアの側に男を置くなんて!」


 ……えっ? 


「男……?」


兄さん、アビゲイル義姉さん、そしてヒイロの視線が一斉にアオイに集まる。


「えっ……」


  俺はアオイの顔を見た。アオイがニコリと笑う。か、可愛い。こんなかわいい子が男のはずが……俺はアオイの股間を見た。


「こらこら、どこを見ている」


 レオ兄さんが呆れ顔をする。俺は唾を飲み込んだ。まさか?


「見ただけじゃよくわからないな。ちょっと触ってもいいか?」


「駄目ですっ!」


 アオイが涙目になる。


「そんなことしなくても大丈夫だ! アオイは男だ! 俺がちゃんと男だと確かめたから間違いない!」


 レオ兄さんが胸を張る。


 え……。


 頭の中が真っ白になる。

 回らない思考の中、必死に考えを巡らせ、俺はアオイがレオ兄さんに押し倒されていた時のことを思い出した。


「あ、もしかしてあの時……!?」


「そうだ、あの時確かめたんだ! ふー、ようやく誤解が解けてよかった!」


 ええええええええ!? 本当に?? 本当にアオイは男なのかよぉおおおおおお!!!! だって!! どう見ても女の子にしか見えないし! どっからどーーみても美少女だし……


 すると、足元にいたムータが毛を逆立ててアオイを威嚇した。

 おっぱいが大好きで、男の子が大嫌いなムータが......と、いうことはやっぱり!?


「すみません」


 アオイが頭を下げる。


「ま、しかたないわね。アオイはその辺の女の子なんかよりぜんぜん可愛いんだから」


 ムータを抱き上げると、なぜか嬉しそうに勝ち誇った顔をするヒイロ。うう。みんなして騙してたのかよぉ。


「でも『確かめた』ってことはその前からレオ兄さまはアオイが男の子だって確信していたんだよね?」


 モアが首をかしげる。そうだそうだ! モアの言うとおりだ! 全く、モアは可愛いうえに賢いときた!


「最初からだよ。舞踏会の時、転んだアオイを俺は抱き留めたんだが、その時なんか男っぽいなって思ったんだ。ほら、男と女で抱き心地って違うじゃん? なんか関節とかがさ、がっしりしてるなって思ったんだよね」


 レオ兄さんがニコニコしながら言う。うーん、そんなもん、なのか??


「でもなんで、アオイは女装なんてしてるんだ?」


 俺が聞くと、アオイの代わりにヒイロが答える。


「そんなの、可愛いからに決まってるじだろうが!! 男の子なのに女装してるっていうのが良いのだ!!!」


 血走った目のヒイロ。もしや、アオイはヒイロの趣味で女装してる?? 


「えっ? アオイはそれでいいのか?」


 恐る恐る聞くと、アオイはにこりとしながら答えた。


「はい、私は何でも似合うので」


 いや......いやいやいや! そういう問題か?


「女装をすれば皆さん褒めてくださるので悪い気はしません。それに男物の服って、お洒落したくても色が黒とか茶色ばかりでつまらないですし」


「アオイは何でも似合うからな」


 うんうん、と頷きウットリとした顔をするヒイロ。


「というわけで、私は男だったわけなんですが、それでも、私のお姉さまでいてくれますか?」


 アオイが潤んだ瞳で聞いてくる。


「それは……」


「駄目だ」

「駄目ーーーっ!!!!」


 俺が返事をしようとすると、レオ兄さんとモアが割り込んでくる。


「男の子を側に置くなんて、絶対にダメだ!」


「そうだよ! アオイはお姉さま好みの女の子な上、男の子だからお姉さまと結婚できるんだよ!? そんなのずるいーーっ!!」


 詰め寄るモアとレオ兄さん。ちょ……ちょっと待て! 何かよくわからなくなってきた! そんな二人の様子を見て、アオイは小さなため息をついた。


「大丈夫です、私とお姉さまはそういう関係じゃありません。私の好きな方は他にいるんです」


「え? だ、誰よ!」


 俺たちよりも先にヒイロが食いつく。


「それは……」


 アオイの潤んだ目が、じっと見つめる。その視線の先には……


「えっ」


 視線の先にいた兄さんが固まる。


「レオ兄さん……!?」


「あの夜……レオ様のたくましい腕に抱かれて、私、ドキドキしてしまって」


 頬を赤らめながら言うアオイ。


「ちょちょちょちょっと待った!」


 狼狽えるレオ兄さん。


「どどどうしよう。アオイは男で……でも女の子より可愛いし……そこまで言うのなら……イケるか!?」


「イケるか? じゃありません」


 アビゲイル義姉さんが笑う。ちょっと、目が……目が怖い!!


「だだだだだ駄目だそんなの! そんな男の子同士だなんて……ああっ......!」


 ヒイロはヒイロでなぜか興奮しだすし~!


「なあんだ! そうなんだ!」


 モアは、ぱあっと顔を輝かせた。


「じゃあ、お姉さまとは」


「はい、単なる憧れの存在です。格好良くて可愛いので」


 アオイがそう言うと、モアはアオイの手をがっしりと掴んだ。


「そうだよね!? お姉さま、格好良くて可愛いの! やったー! これからは妹同士、仲良くしようね!」


「はい」


 硬く握手を交わし合う二人。もー、訳が分からん。俺はポリポリと頭を掻いた。


「……分かったよ。アオイ、お前は俺の妹分だ。お姉さまでも何でも、好きに呼べ」


「わーい。ありがとうございます、お姉さま」


 やれやれ。

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