8.お姉様と緋色の目
翌朝、俺がムータを抱きながら応接間に行くと、アオイとヒイロが食事をとっていた。
「おはようございます、お姉さま!」
にこやかな笑顔で立ち上がるアオイに対し、ヒイロは黙々とパンを食べている。
「ああ、おはよう」
俺は近くの椅子に腰かける。
昨日のドレスとはうって変わり、二人ともシンプルな黒いワンピースを着ている。化粧はほとんどしていないが、それでも目鼻立ちが整っているのが分かる。美形姉妹だ。
「なあ、そのお姉さまってのだけどさ」
「はい、なんでしょう?」
俺が切り出すと、アオイはニコニコと返事をする。どうやら昨日の出来事はそんなに引きずってないらしい。
「アオイには本当のお姉ちゃんがいるじゃないか。それに、アオイって今いくつだ?」
「18ですけど?」
にこやかに答えるアオイ。俺より2歳も年上じゃねーか!
「俺よりも年上なのに、お姉さまでいいのか?」
「いいんです。お姉さまとは概念的なものなのです♪」
なぜか嬉しそうなアオイ。
……よく分からないが、アオイがいいのならそれでいいのか?
ヒイロは黙ってそっぽを向く。
「お姉さまおはよう~」
モアも寝ぼけ眼をこすりながらやってくる。
「モア♡」
あーっ、モアは今日も可愛い。なんか前髪に変な寝癖がついてるけど……そんなちょっとヌケてるところも最高だ!!
モアは笑顔でトテトテと歩いてくると、俺が抱いているムータに目を止め首を傾げた。
「あれ? ムータくん、どうしたの? きれいなお姉さん、好きでしょ?」
見るとムータは毛を逆立ててフー!と姉妹を威嚇している。
どうしたんだ? 昨日はあんなに胸にスリスリして機嫌が良かったじゃないか。
俺は姉妹の方をじっと見た。ま、まさか!
「まさか、胸が小さいから気に入らないのか!?」
「お、お姉さま......!」
思わず口に出てしまったその言葉に、モアが慌てる。あ、少し失礼だったか?
姉妹の方を見ると、ヒイロが肉を串刺しにしたフォークを手にブルブル震えている。
「ね、姉さん?」
アオイがヒイロの顔を恐る恐るのぞき込む。ガシャン、と大きな音を立て、フォークがテーブルに置かれる。ヒイロは鬼でも両手を上げて逃げ出しそうな形相でこちらを見据えた。
「......だれが貧乳だって?」
「ヒッ!」
あまりの形相に、モアが俺の腕にすがりつく。ムータも部屋の外へと逃げてしまった。
「ね、姉さん落ち着い......」
「私は落ち着いている!」
オロオロするアオイを睨みつけるヒイロ。ど、どこが落ち着いてるんだよー!!
「そもそも、胸なんてのはただの脂肪だし? そんなもので人の魅力は計れないっていうか?」
「そ、そうですよねー」
「う、うん。そうそう」
アオイとモアまでフォローに回る。俺も慌ててこう言った。
「そうだよな、乳なんて邪魔なだけだ! 俺は何も無くても構わないよな!」
「お、お姉さま!」
モアが俺の腕を引っ張る。
「あ、そっか、何も無いは言い過ぎだな! 有るか無いか分からないほど微かだけど有るんだしな!」
しどろもどろになりながら、フォローになってないフォローをしていると、ヒイロが、おもむろに立ち上がった。
「......殺す!」
ひぃ、怖いよぉ!
だがノックの音と共に入ってきた爺やの一言により、場は静まり返る。
「姫さま、大変です。昨日捉えた賊が、奥歯に仕込んでいたと思われる毒を飲んで自殺しました!」
「何だって?」
アオイやヒイロの顔色も変わる。
「ってことは、兄さんを狙った黒幕は分からずじまいってことか」
舌打ちをしながら俺がそう言うと、ふいにアオイが手を挙げた。
「そういうことでしたら、姉にその死体を見せて頂けませんでしょうか?」
「え?」
聞けばヒイロは透視能力の持ち主なのだという。
「ふふ......どうやら私の暗黒邪鬼魔眼を見せてやる時が来たようだ......」
ヒイロが足を組み換え偉そうにする。
「姉は魔眼により、生前の記憶を読み取れるのです」
にこやかに教えてくれるアオイ。
「魔眼! いいなー、カッコイイ!!」
「ふん、当然だ。私の力、見せてやる」
俺たちは地下へ降りると、早速暗殺犯の男の死体と対面した。
「ウッ......」
苦しげな顔の遺体を見て、俺は少し吐きそうになる。
「お姉さま~、怖い~!」
だが、モアが柔らかな体を押し付けて抱きついてくるので、俺は一瞬にして気分が良くなった。なんて柔らかくていい匂い!
「どいて」
モアの匂いを嗅いでいる俺を押しのけてヒイロが遺体に近づく。
そしてカッ、と目を見開いたかと思うと、ヒイロの目が、炎のようの赤く輝き出す。すげー、これが魔眼か。何が起きてるのかさっぱり分かんないけど!
ヒイロは紙にサラサラと何かを書き始める。人の似顔絵のようだ。
「どうやらこの人物が殺しを依頼したようだ」
「これは......」
似顔絵を受け取った爺やが固まる。
「どれどれ、どんな奴だ?」
横からのぞき込むと、そこには金髪で髭を生やした細面の男の絵があった。この顔、どこかで。
「う、嘘でしょグンジ叔父さんが」
モアが蚊の鳴くような声を上げる。今にも倒れそうだったので、俺は背中に手を回し支える。
その似顔絵は先代国王の弟、グンジ叔父さんにそっくりだったのだ!
「まさか。なんで叔父さんが?」
「でもありえるぜ。あのおじさんのことだ」
俺はあの細面のギラギラした瞳を思い出す。いつも父上や兄さんを馬鹿にした態度をとって、俺やモアを舐めるような目で見ていた。
「そうだな。陛下が居なくなれば次の王になるだろうし、動機もある」
ヒイロが胸を張りながら言う。
「ですが、透視結果だけでは証拠になりませんぞ」
爺やが神妙な顔をする。確かに、それだけじゃ証拠として弱いよな。
その時、俺の頭に妙案が浮かんだ。
「みんな、聞いてくれ! 俺にいい考えがある!」
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