第2章 お姉さまと謎の姉妹
7.お姉様と美人姉妹
舞踏会で起きたレオ兄さん暗殺未遂事件は無事解決を迎え、縄でぐるぐる巻きにされた暗殺犯は地下牢へ連れて行かれた。
「ミアお見事だった。それにヒイロとアオイの二人も。二人は何か武術の心得でも?」
レオ兄さんがにこやかに尋ねる。
「はい。国王陛下。私たち、実は冒険者なんです」
アオイレオ兄さんに冒険者カードを見せる。
「ほお、A級か。すごいな」
レオ兄さんは感心したように頷く。
冒険者のランクはS級からD級まであるって聞いた。A級ってことはかなり強いんだな。まだ若いのに。俺とそう変わらないんじゃないかな。
いいなあ。俺も冒険者になりたいよ。
俺の愛読している雑誌『月間冒険者』によると、最近では十代の冒険者も増えてきていて、十四歳とか十二歳でモンスター討伐やダンジョン攻略で名を挙げる人も増えてきているのだと言う。
そういう話を聞くと、正直言って少し焦る。
「もし良かったら、二人ともこの城に数日滞在してはいかがかな? 丁重にもてなそう」
上機嫌になったレオ兄さんはこんな事を言い出した。姉妹は顔を見合わせる。
「遠慮しなくていいぞ。命の恩人には、最大級のもてなしをするのがつとめだ」
白い歯をきらりとさせて笑うレオ兄さん。
嘘だっ。命の恩人だからってのは建前で、本当は美人だからだろうが。
アビゲイル義姉さんのほうをチラリと見る。てっきり反対するかと思いきや、義姉さんは特に気にしていない様子で微笑んだ。
「そうね、いいんじゃないかしら」
大人だなー、義姉さんは。俺だったらぶん殴ってやるのに。
「では言葉に甘えてそうしましょう、姉さん」
「ああ」
にっこりと笑うアオイに、ぶっきらぼうに答えるヒイロ。
この二人、髪型が違うだけで顔はほとんど同じなんだけど、どうやら性格はだいぶ違うみたいだ。
やがて二人はメイドに案内されて客間へと移動した。
俺とモアも部屋に戻る。
「なーご」
部屋に戻ると、いつものように飼い猫のムータが飛び乗ってきて俺の胸にすりすりする。女の子のおっぱいが好きなんだこの猫は。
「ムータ、いい子にしてたか?」
ムータを撫でた俺は動きにくいドレスを脱ぎ部屋着に着替えようとした。
が、あることに気が付き、全身が凍りつく。
「ない。モアから貰った髪飾りがない!」
部屋の中をウロウロと歩き回ったが、どこにも花の髪飾りは無い。
まずい。きっとあの犯人を追いかけた時に落としたんだ。
俺は下着の上から慌ててガウンを羽織り、部屋を飛び出した。
うわ~せっかくモアから貰った宝物がー!!
*
花の髪飾りは階段のすぐ脇に落ちていた。恐らく部屋へ戻る途中落ちたのだろう。
ホッとしながら自室に戻ろうとすると、客室から何やら男女の言い争うような声が聞こえる。
「......なんだ?」
俺が恐る恐る部屋を覗いてみると、そこには衣服の乱れたアオイと、その上に跨るレオ兄さんがいた。
「...........!」
こ......これは不倫現場!? いや、アオイが襲われてるのか! 助けなきゃ……!
しかし気が動転したのか、俺はガウンのすそを踏んずけてその場で転んでしまう。
俺が派手に転ぶ音に、レオ兄さんは慌ててアオイから離れる。
「いてててて」
「お、お姉さま!」
「誰だ! ......って、ミア!?」
慌てふためくレオ兄さん。その隙に、アオイがパッと兄さんから離れた。
「助けてください! 私、王さまに言うことを聞かないと酷いことをすると言われて……」
「なんだって!?」
俺が睨むとレオ兄さんはうろたえた。
「ち、違う! も~何言ってんだよアオイ!」
アオイは俺の後ろに隠れた。可哀そうに、ずいぶん怖い思いをしたに違いない。
「よしよし、怖かったな!」
「違~う! これは誤解だ!」
「なーにが誤解だ、だよ! この野獣め! 変態、変態!」
俺は兄さんをなじると思い切り部屋のドアを閉めた。
「だ、大丈夫か? ど、どこかに怪我は」
オロオロしながらアオイに尋ねると、アオイは素早く乱れた衣服を直した。
「大丈夫です。変なことは何もされてません。ちょっと服を脱がされそうになっただけで……」
アオイが困ったように笑う。いやいや、充分変なことされてるじゃねーか!! このくそ兄貴が!
「あの......このことは他のかたには内緒に」
「ああ、分かってるよ」
全く、兄上はあんな美人な奥さんがいるのに何をやってるんだ? しかもアオイは命の恩人だというのに!
怒りが収まらないまま歩いていると、廊下の先で、アビゲイル姉さんとヒイロが何やら話し込んでいた。それを見てアオイがさっと顔色を変える。
「こちらの通路を通るのはやめましょう」
「あ、ああ」
俺はアオイに腕を引っ張られ、別の道から自分の部屋へ帰ることにした。
そうだよな。あんな事があった後じゃアビゲイル義姉さんに会うのは気まずいか。見るとアオイは随分険しい顔をしている。余程嫌だったんだな。
アオイは丁寧にも、俺を部屋まで送ってくれた。
「おやすみなさい。......お気をつけて下さい。くれぐれも夜中に部屋など抜け出さないようにしてください」
声を潜め、あたりを見回しながら言うアオイ。
「......? あ、ああ。おやすみ」
アオイの態度に何となく釈然としないものを感じながらも、昼間の疲れからか、俺はぐっすりと眠り込んだのであった。
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