美里楽一の奔走・Ⅰ
「……ちっ、ガイシャの死因は?」
一度手を合わせてから捜査は始まる。一言目は壮年の警部からだ。
「左胸を刃物で一突きです、他に外傷は無くそれで間違いないかと」
「分かった、周辺の聞き込みを頼む」
「はっ」
警部の指示で現場が動く。
「
「はぁ、東間刑事ならあちらで……」
「まった倒れてんのか……」
視線の先には室内のソファーで横になっている若年の刑事が一人。目はつむっている。
「起こしますか?」
「ほっとけ、役に立たん」
警部はその後一息ついてから死体の周りを見て回る。不自然な跡は無いか、犯人が残した忘れ物は無いか、被害者が遺したメッセージは無いか。
死体は仰向け、その胸元付近から零れる多量の血液。犯行現場はマンションの一室、被害者が住んでいる部屋。故に犯人は被害者の知り合いの可能性が高い。引き出しや棚が荒らされた形跡は無く、強盗物盗りの類では無い。血文字は無し、テーブルの上のメモ帳にも跡は無い。ごくごく普通の殺人現場だ。
「ま、そう簡単にゃあ見つからんわな」
警部はポケットをまさぐりながら現場を出る。タバコを吸わなきゃ頭が働かない、とは本人談である。
「ふぅ……」
マンションの廊下で曇り空を眺めながらまずは一服。雨でも降りそうな空模様、気怠さが増す。
「関係者以外は立ち入り禁止です!」
「あぁ、あの、矢部警部に言ってくだされば分かると思うんです……」
「矢部警部は今捜査で忙しい、第一君のような学生が来るような場所ではない」
曇り空を眺めててもつまらないと、ふとマンションの下に視線を動かすと、一人の学生が現場に入ろうとしていた。
「おうボウズ、どうした?」
「あっ、矢部さん! 丁度よかったです! 現場、入れてもらってもよろしいですか?」
「ひきこもり嬢ちゃんからか、分かった! おい新人! そいつ通してやれ!」
「し、しかし良いのですか!?」
「構わん、そいつはワトソン博士だ!」
「は、はぁ……」
「すみません、失礼します」
そう言って入口方向に歩いて行った少年の姿は見えなくなる。
「……さてと、俺も働くか」
矢部警部は、一服してから頭が働く。
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