第5話 有象無象の中のセミ
あれから4日過ぎた放課後の喫茶店。
4日前と同じく、私はショートケーキ、雛子はガトーショコラを食べていた。そして4日前と変わらずショートケーキは味が薄いしいちごは酸っぱい。もしかして、これは量産型ショートケーキなのかな。個人経営っぽいなと思ってたけど、ひょっとしたら私の知らないチェーン店なのかもしれない。
あの日過去から現在に戻った後、冷静になった私はあることに怯え始めた。それは過去の私を殺したことによる諸々の影響だ。しかしそんな私を見てクロノスちゃんは苦笑した。
『言いましたよね? 過去は現在とは独立的に存在していますって。時間は連続性を有しながら、一方で不連続性をも有しています。だから過去のお姉さんが死んだところで、今のお姉さんは死にません。既に確定している過去は変わらずそのまま認識されます』
実際、クロノスちゃんの言う通りだった。私が消えるようなことはなく、過去の私が死んだということを誰も認識していなかった(雛子にさりげなく確認した)。
とは言え、私は過去の私を消し去った。
『自己満足的な結果にはなりますが……少しは変わるものだと思いますよ?』
あの言葉も、本当だったみたいだ。
「今日も災難だったねー」
「確かに今日はちょっとやかましかったかな」
季節外れのセミがいるようなものだ。そんなことをふと思った。
「………」
「ん、どうしたの?」
雛子が手を止めて、じっと私を見つめていた。雛子はそのままゆっくりと首を傾げた。
「何か、智代ちゃん変わった?」
「そう、かな?」
私もケーキを崩す手を止めた。テーブルに頬杖をついて、窓の外を見る。
目の前の通りにはサークルの勧誘ビラを配る人、ギターケースを抱えてベンチに座って談笑する人、足早に通り過ぎていく人……色んな人が居る。
あの子もそんな有象無象の一人なだけ。
はるか頭上には、雲一つ無い晴れ渡った青空があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます