第26話 電話

「もしもし、母さん、俺だよ」


「あんたかい、今日はどうしたの?」


この日、ホールの公衆電話から自宅へと電話し、母さんが出た。5000円のパックを買ってきてというぶっちゃけキツイ相談内容であるがなんとか交渉を試みようと思った。


「あのさ、俺ここでさ。カードゲームのワールドクリエイトってゲームにハマってさ」


「そうか、あんたものめり込めることを探したんだね。すごいじゃないの」


「それでさ、そのカードゲームのパックを売店で母さんが出してくれるお金で買ってきて欲しいんだ。俺極めてみたいんだよ、ワールドクリエイトを!だから5000円分のパックが必要なんだ」


「随分とまあ急な話だね、5000円分は言い過ぎじゃあない?それだとあんたはお菓子食べられないけどいいのかい?」


「病院でさ、学校が同じのヒロトってやつと、ここで知り合ったカケルってやつがいるんだ。それで3人でパックを買ってもっと強くなろうって約束したんだ!」


数分ほど母さんは電話越しで無言で悩み、そして返事をした。


「いいよ。5000円分だね。父さんにもちゃんとありがとうって伝えるんだよ。後、やるからには本気でやりなさい。いいね」


「分かったよ母さん!俺、退院したら大会で優勝してみせるよ」


啖呵切って喋ってみたが、実際は夢のまた夢の話だ。


「いうじゃないの、そうこなくっちゃね。じゃあ、明日持ってくるから待ってなさい」


「分かったよ。じゃあね」


電話を切る。ガッツポーズをする。


「聞いてたぜ、なかなかすごいことをいうじゃないのソウタくん」


後ろで電話の様子を聞いていたカケルはそう言った。


「で、返事はどうだったんだ?」


「ああ、オッケーだってさ。明日5000円のカードパックを買ってきてくれるってさ」


あ、しまった…。一番新しいパックを買ってきて欲しいというのを忘れてた。母さんは気がきく性格とはいえ、買ってきてくれるだろうか。少し心配だ。


「これで俺様もオッケー出たから、後はソウタだけだな」


「僕かい?任せといてよ!こういうのは得意なんだ〜」


いやいや得意も不得意もないだろ…。

ヒロトは電話をとり電話をかける。


「じゃあ僕のターン!受話器をドロ〜ってなんちって」


どういうノリだよそれは。と突っ込みを入れたほうがよかっただろう。


「あ、お母さんお母さんちょっと聞いて〜。売店のお金でパック買ってきて欲しいんだけれどいいかな?うんうん。そう、ありがとね〜お母さん愛してるよ。じゃあね」


ガチャと受話器を置く。


「で?ヒロト。お前の方はどうだった?」


「全然オッケーだったよ。これぞ愛の力ってやつだね5000円分のパックをゲットだぜ〜みたいな感じだね〜」


俺とヒロトとカケルの3人ともオッケーが出たから15000円分のパックを買えることになる。三人合わせたら一パック150円だから100パック買える計算になるけど、正確には5000円分で33パック買えるから、合計99パック買えることになる。


「99バックも開けるの楽しみだねぇ〜僕ドキドキして今日は眠れそうにないよ〜」


「パック開封用のハサミ必要だな。ホールのナースセンターで借りることにするか」


これで3人ともオッケーが出たから99パックを買えることになる。明日が待ち遠しい。今日は俺も眠れそうにないや。


***************************************************************************************

その日の夜は案の定眠れなかった。時刻は11時。テレビのホールで座っている患者もいる。まあ、テレビはついていないが。


「やあ、ソウタちゃん。ソウタちゃんも眠れないの?」


あくびをしてやってきたのはヒロトだった。


「お前もやっぱり眠れなかったか〜」


部屋のいびきで眠れない3人部屋とは違って、一人部屋のヒロトはいつも眠っている時間だが今日は明日の件で眠れないらしい。そりゃそうだ。いわゆるパックの大人買いをするのだから楽しみでたまらない。その日の夜はヒロトと共に過ごし、12時になってようやく眠気が出てきて部屋で熟睡した。





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