第16話 一般病棟
「伊吹さーん、お熱計りますよ」
「はい、分かりました」
「お通じありました?」
「さっきありました」
「そうですか、36.4度ですね。ありがとう」
ナースの大林さんは俺の部屋から出て行った。
俺の部屋は3人部屋で残り2人は中年のおじさん2人だ。
普通に生活する分にはいいが、夜はいびきのうるささでなかなか眠れない。
そのことをナースの人に話してみたことはあるが、我慢するしかないとのことだ。
俺の人生長いこと生きてきてこんなに窮屈な日々なのはこのかた生まれて初めてだ。
俺のここでの1日はまず朝6時50分に起きる。朝食の10分前だ。
そしてナースの人が7時00分に患者を起こしにくる。
そして朝の朝食だ。献立はご飯と牛乳はいつも同じで
それ以外は毎日違う。
8時になったらお風呂の予約表がホールに置かれるので
俺は毎朝9時にお風呂の予約を入れる。
お風呂に入れる時間は貴重なものだ。30分に限られている。
なのであんまり湯船でのんびりしてると体を洗う時間がなくなって
しまうので注意だ。
10時くらいになるとナースさんがくる。因みにいつも大林さんがくるわけではない。
体温とお通じの確認だ。因みにお通じとはうんこのことである。
担当の人によっては違うみたいだけど、
月曜と火曜の11時くらいに
担当の主治医の先生が俺の部屋にくる。
以前に俺の記憶喪失について聞いてみたが、原因は不明であるが
双極性鬱障害と呼ばれる病状の躁状態に近いものだったらしい。
それで今俺はここにいる。
12時になると食事の時間だ。献立は毎日違う。
食事は大きなワゴン車のケースに入っており、
ナースが患者の名前を呼び手渡しするのが流れだ。
14時くらいには卓球をする人もいれば、テレビを見てる人や
ホールで将棋やお絵描きをする人、さまざまであるが、
大半はテレビを見ている患者が多い。
18時になると夕食の時間でいつものようにワゴン車がくる。
夕食を食べ終え、てきとうにテレビをテレビの置いてあるスペースで見る。
20時になればナースが薬をそれぞれの患者の部屋に運びに来て
クスリを渡されそれを飲む。クスリの量はざっと14くらいある。
この量だと逆に怖くなる。
21時になれば消灯時間で患者はみな自室に戻り熟睡する。
そしておまけとして22時になると同室の人のいびきで
しばらく眠りにつけない…。
これをまずなんとかしたい。というか耳栓が欲しい。
今度親に持ってきてもらうことにしよう。
そう、ここでは公衆電話でお願いすれば親と面会できるのだ。
ここでの生活は約50日くらいたって、いつになったら退院できるんだろ…と
カレンダーを見て悩む日々。暇なときは雑誌やテレビを見ているが
ふと、俺何やってるんだろうと思う。
外の風景を窓から見る。
どこかの交差点で向かうには中学校もある。
外をきままに歩いてるやつらが羨ましい…。
そんな嫉妬心も抱く。
今までは何も知らず自由に生きてきたが、今こんな状態になって気づかされる。
今までがどれだけ自由だったかということを。
はやく退院できますようにと祈るばかりだ。
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