第3話

大きいな。入り口から侵入してきたソイツを見てまずはそう思った。人一人立って入るのに余裕がある入り口をギリギリで通過してくるサイズだ。こわい。助けて……

兎に角、なるべく動かないようにして動きを観察しよう。ソイツがノソノソと洞窟の中に入ってくるに従い、月明かりが逆光から順光に変わり良く見えるようになる。ソイツの正体は二足歩行するクマのようだ。おまけに頭にトサカのようなものがついてる。便宜上こいつのことをトサカグマと呼ぶことにしよう。

トサカグマは手に抱えた何かを洞窟の奥に置くとまたノソノソと洞窟を出ていった。良かった、俺には気付かなかったみたいだ。

俺は緊張感を保ったままゆっくりと起き上がる。何故なら、まだ怖くてチビってしまいそうだから。どうもここはトサカグマの根城だったらしい。戻ってくる前にここを出た方がいいかもしれない。

ふと、トサカグマが置いていったものが目に入る、木の実だ。そういえば俺はしばらくご飯を食べてないなあ。トサカグマが食べれるのだからきっと俺も食べれるのだろう。木の実をインナーで作った即席のバッグに詰めて非常食を確保。俺は夜も明けぬうちに洞窟を出た。


夜の森は予想以上に怖かった。遠くで狼の遠吠えみたいなのが聞こえるし、足元が見えなくて沼みたいなところに何度も足を突っ込んでしまった。それでも幸運だったのは、どう猛な肉食動物に遭遇せずに朝を迎えられたことだろうか。


陽のさし始めたジャングルで、俺はようやく人心地つけて、そこでトサカグマの木の実を食べることにした。正直、お腹が空いてしょうがないのだ。実は1種類だけしかない、多分これがトサカグマの主食なのだろう。赤い、トマトのようなイチゴのような実だ。恐る恐る口に運んで舐めてみる、甘い。良かった〜、甘いってことは多分、食べれるってことだ。そのままムシャムシャと口に放り込んで、持ってきた分は全部食べてしまった。それじゃあ気を取り直して出発と行こう、もう朝になったし心配は無いはず。


何時間歩いただろうか、太陽はすでにてっぺんぐらいの高さだ。俺はついにジャングルを抜けて草原に出た。しかし、素直に喜べないことに、体調が明らかに悪いのだ。きっとあの赤い実のせいだ、失敗した。今にも倒れそうだ、誰か助けてくれ。さらにツイてないことに先程からオオカミの遠吠えが徐々に近づいている気がする。誰だよ、昼間は安全とかいった奴はよ。

どうやらこの世界には昼行性のオオカミがいるらしい。元の世界にも居たんだろうか?分からん。俺は専門家じゃないんだ、ただの浪人生なんだぞ。

ダメだ。意識が朦朧とする。オオカミの声も、もう直ぐそこまで来ている。俺はここで死ぬのだろうか。せっかく異世界に来るのなら、チート能力の一つや二つよこして然るべきなんじゃないだろうか。こんなんなら異世界にくるんじゃなかった。足元がふらついて倒れてしまう。顔に草が触れる。全身が痺れる感覚。もう起きれない。オオカミの足音が地面越しに聞こえる。

意識が途切れる直前、女性の声とトンデモない爆発音を聞いた気がした。

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