epilogue.――ロミオ
ふに。
音にしたらそんな感触で
妄想の中ではもう何度も触れていた、れえの唇に自分の唇を重ねた。
唇が離れてもれえは何が起こったかわからないような顔で、目を丸くしてきょとんとしている。
そんなれえから目が離せない
…でいると、ロミオさんに髪の毛後ろにひっぱられて引き離された。
いでででで、
「いい度胸だなオイ、俺の目の前で」
「………」
「去勢されたいか」
怖。
本気な感じでそういうこと言うのほんと怖い。
「あらら、陽ちゃん。何してるの危ない危ない」
あわてるように割って入ったのはれえの母さんだ。
陽ちゃん…?……おばさんロミオさんの事本名で呼ぶんだな……
その後ろには、ロミオさんの婚約者の澪さんも顔をのぞかせている。俺と目があうと、そっと柔らかな笑顔で会釈してくる。
ん?……なんだコレ…なんでこんな、集まってんの…
「くに君、大丈夫?おばさん迷惑かとおもったけどこれ、お見舞い」
机にどーんと置かれたのは、見た事ない外国の木彫り人形だった。
ほんと昔からそうなんだけど、れえの母さんのド天然ぷり…
「か、かあさんやめろよ。こんなのくにいらないって」
れえはあせってそう言ったけど、俺は嬉しくて、おばさんに向けてありがとうと口を動かした。
しかし、異様ないでたちのその人形は見れば見るほど笑える。
「これねアフリカの魔よけだって、危険から守ってくれるんですって」
真剣なまなざしで俺にいってくるおばさんの瞳はれえとよく似てる。
「陽君」
澪さんがロミオさんに静かに声をかけた。自分の腕時計を指すと、ロミオさんも小さく頷いた。
ロミオさんは確かに見慣れぬスーツ姿だったけど、もしかしたら何か大事な仕事の合間なのかもしれない。
「国彦、もう礼に1ミリも怪我させるなよ」
あまりに真面目に言われて、微かに戸惑った。
そもそもロミオさんとれえ…
キスマーク
結局どういういきさつでどうなった……
俺が頭ん上に?いっぱい浮かべてるとロミオさんが続けた。
「イギリスにあるKBPの大元に行く事になった。二年の予定で、先はわからない。今日発つから特別講義は別のヤツに可愛がってもらえ。お前だけ特別しんどいメニューにしてくれって頼んどく」
頼まないで
「礼を護らせてやるよ。俺の、世界で一番大事な弟なんだ。ぬかるなよ。」
………
弟、弟って、強調するみたいにロミオさんがいつも言うのは、
ずっとそれだけ愛情深いって事が言いたいんだと思っていた。
だけど、
今のは違う響きで聞こえた。
「あと、俺が帰ってくるまで絶対変な事すんな」
杭さすように指差してそう言うと、ロミオさんと澪さんはおばさんとれえに手を振って病室を後にした。
どこか複雑な顔して見送ったれえに俺が
「(れえ、ロミオさんて…)」て聞くと、れえは少し困ったような顔で俺に言った。
「兄ちゃん、俺のほんとの兄貴なんだ…」
え
「俺もこないだの入院中に知った」
「くに君にも言ってなかったのね。よく遊んでくれてるからてっきり陽ちゃんが言ってるとばっかり…ごめんね。」
「(や、え?…でも)」
「礼のお父さんにはね、早くに亡くなられた奥様と、私の他にもう一人奥様がいて」
ん、んんん?
「ブロンドの長い髪の女性でね。それが、陽ちゃんのお母様。陽ちゃんを産んでしばらくして生まれ育ったお国に帰られてからは日本にもあまりいらっしゃらなかったから、会った事はそう多くはないけど、とても綺麗な人だったのよ」
れえの父さん…どんだけだ…
なんか、わかんねえけど複雑すぎて
つうか、
そしたら俺、ド級のブラコンに対して、あんな嫉妬してたのか
全身からどっと力が抜けた。
いや、ド級ブラコンにしたって、あの執着は充分変だけどな。
だけど、それを聞いてはじめて、
もしかしたらロミオさんが抱えていたかもしれない孤独が、礼の孤独と共鳴したのもどこか理解出来る気がした。
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