第21話
「おかーえり♡今日はゆず特製にくじゃがだよ~」
川瀬の様子を見に行くと、いつものように明るい川瀬が出迎えてくれた。
すげーいい匂いがする。
玄関近くのミニコンロにある鍋をのぞいた。
「おー、すげーにくじゃが」
へえって眺めてたら、川瀬が俺と鍋の間に入り込んで顔を見上げてきた。
「…て、元気ないね」
「そう見えるか」
「うん。どうしたの」
「…なんも」
荷物下ろしてつまんで食ってたら、背後でクローゼットを派手に開ける音がした。
振り向くと、川瀬がばしばしと洋服を部屋の中に放り投げている。
「川瀬何してんの」
「ゆずきひと肌ぬぐよ~ッ」
「何この衣装の山は」
「こんなカッコしてみてとかってお客さんが買ってくれたの。あ!女子高生あった」
「こんなん着てたのか」
「うん。割と似会うよ」
「うわー、違和感ねえな」
「萌えない?」
「んー…」
「じゃこれは?」
古いタイプの学ラン…思わず吹き出してしまった。
「ダメ?」
「や、ダメとかじゃなくて、面白すぎだろ」
「メイドさんとか、あ!ナースもあったな確か」
「もういいって川瀬、充分面白かったって」
「ミニスカポリスもあった!!」
「だからいいって」
ひとり川瀬の投げた衣装にうもれて笑ってたけど、ふと気付くと、川瀬はすっかり静かになっていた。
じっと我慢するように背中を震わせている。
「川瀬?」
声をかけると袖で涙をぬぐうようなしぐさをして、またあたりをさぐりはじめた。
俺がその手を取ろうとするとやんわり振り払われた。
「嫌だ、探すの!!」
「なんでだよ、今のまんまの格好が一番イイ」
振り向いた川瀬の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
てのひらで涙をぬぐってやると、川瀬はじっと俺の眼を見つめた。
それから、ぎゅっと俺の首元に抱きついた。
「かわせ?」
「おれ、こんな事しかできない。ほんとコレしかないよね」
「……」
「どうしたらいいのか、わかんないよ」
「なんで、なんかしねえととか思うんだよ」
「…わかんない。きっと幸せだからだ」
「幸せ?」
「うん。幸せって怖いんだね」
川瀬は、本当にたった今分かったように、素直な表情でそう言った。
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