reflect.――国彦


れえの事は、絶対俺が守る

誰にも傷つけさせない


雨雲の引いた、怖くなるくらい綺麗な星空の下で何の疑いもなくそう思った7才のあの日

れえの事を誰より特別に思っている自分に気付いた。


抱きしめて感じた。

ずっとそうだったのかと思うくらいの一体感と安心感。

力を込めてれえの身体を引き寄せた瞬間に

言葉をかわさなくてもれえが欲しているのが何なのか伝わってくる気がした。

後から考えてそれをムリヤリ言葉にするなら“父親の強さ”だったり“揺るがない愛情”そんな言葉になるのかもしれない。

俺は「守る」という言葉を使いながら、無意識に、れえが欲して渇望しているものを俺が与えてやりたいと思っていた。

だから本当は、守るなんて言葉適当じゃない

れえの事、守ると言わずにいられなかった弱さを抱えてたのは俺の方だ。


れえが家出をするまでの数日間。

れえの様子は俺の眼から見て普通ではなかった。友達といつものバカ話する時もひとり上の空で、給食は大好物のはずのカレーも食べきれず残した。

故意のハンストや、何か友達間でのわだかまりがあるような感じじゃない。そうしたいわけじゃないのにどうしても受け付けない、心がうごかない。そんな感じだった。

他の奴らがいつもと違うれえから少しずつ距離をとりはじめた頃、れえが突然姿を消した。

何も言わずに悩みを抱えて姿を消したれえに対して、怒りと、それから説明できない焦りみたいなものを感じる自分に気付いた。


その年の夏の夕暮れ

眠ってるれえに顔を近づけて衝動的に頬に口をつけた。

肌に唇が触れた瞬間に襲った罪悪感と

背徳感。

好きだと自覚するのにそう長く時間はかからなかった

もっと深いところで触れていたい

本能でそう思った


時がたてば経つほど、

身体が成長すればするほど、

れえを守りたいと思う気持ちが強くなった

不格好な独占欲が増した

俺だけがれえを守る




だけど、いざれえの身が危険にさらされた時にれえを守ったのは俺じゃなかった。

害獣に噛みつかれ、いくらか肉を食まれてれえが泣いて痛がるのに、

俺は手も足も出なかった。


『どいてろ』


背後から声がした。

振り向くとこのあたりでは見かけた事のない背の高い男が、まさしく害獣とれえに向けて鋭い眼光をむけていた。

それが、その頃KBPの害獣駆除部隊に入りたてのロミオさんだった。

ロミオさんは俺を押して害獣から引き離し、れえの腕に噛みついた害獣を見慣れぬ武器でズバリと焼き斬った。


血が止まらないれえの腕をぐっと圧迫止血しながら、抱き上げるその身体は見上げるほど大きくて

途方もなく力の及ばない存在感で

俺は、その一部始終をただ傍観する事しかできなかった。




れえのあの埋まらない心の穴を、ぴったりと埋めるように突然現れたその存在にいくら嫉妬しても足りないし届きもしない

いつのまにか、ロミオさんという絶対的に強くて安定した愛情を注いでくれる存在に思う存分甘えていられるような無邪気で幸せそうにするれえの姿から、目を背けるのにうまくなった。



それでも俺は、いつだって、

れえと寄り添って眠ったあの夜を

星空を

つないだ手のぬくもりを


捨てきれずにいた。

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