[礼の心]9


何度も繰り返し思い出してる。


あの日、昼休み終わってチャイムなりそうなのに一人教室と逆の方に向かう国彦を見つけて気になって屋上まで追ったけど、いつもと違う様子に近づけないでいた。

そうしたらあの赤い髪の後輩が倉庫から出てきて

それから…


すごく強い力だった。

俺と同じくらいの背丈ある相手を乱暴に引き寄せて、噛みつくみたいに

知らない国彦を目の当たりにして怖かった





……怖かった?


いや、怖いのか悲しいのか、寂しいのか、今でも感情がわからない。


気付いたら思わず国彦の名前を叫んでいた。

恥ずかしくて、とてもその場にいられなくなって走り出したけど、

追ってきたあいつの押し付けてくる身体が異様に熱くて

考える前に逃げ出してしまった。


走って階段降り切った所の角で、先生にぶつかった。

反射で謝ったけど、ほんとはそんなの気に止められないくらい鼓動がおさまらなかった。


教室に戻って席についても心臓が壊れそうで。

熱くて。苦しかった。




倉庫に監禁されて、目え覚めて電話で聞いたくにの声、安心した。

こんな最悪の状態じゃなきゃ普通に話できそうだ…そう思えたから


それだけで充分だったはずなのに




倉庫に来た国彦が机の脚の隙間から見えた瞬間、

傍にあの後輩がいるのを見た瞬間

そいつを気遣うそぶりをした瞬間



いつも冷静なくにが、

見たことないくらい余裕ない表情で駆け寄る瞬間




あれ


俺、やっぱり変なんだ


国彦に会いたい

声がききたい


俺以外の誰かを そんな風に 守らないでほしい



そこまで考えてまたはっとした。天井が滲んでる。

こんな考え、だめだよな




検査の結果、俺のあばらは見事にぱきっと折れてて、だけど運よくっていうか、心臓とか肺には影響なかった。

身動きが取れずにじっとしていると心も弱ってくるのか

うまく心の均等がとれなくなってる。



病室の扉をノックする音が聞こえて、兄ちゃんが顔を出した。

「れーい!にいちゃん来たぞ~」

つって手に持ってたお菓子をベッドにポンと放ってくれた。

受け取りたいのに、ぜんぜん身体が言う事きかなくて、結局兄ちゃんが俺の手に持たせてくれた。

「よく頑張ったな、おまえ、怖かっただろ」

言いながら撫でられると、すこしだけ空虚な感覚が埋まるような気がした。

そっと目を閉じると、兄ちゃんが心配して「大丈夫か?具合悪いのか?」と聞いてきた。俺は首を横に振った。


空いたままになっていた扉からまた小さくノックの音が聞こえて視線を移すと、

国彦が立ってた。

心配そうな表情のくにが近づくにつれ、

心臓が壊れそうになった。



やっぱり俺はおかしい

いや、もっとおかしくなってる

変になりそうだ…


毛布に隠れたけど、すごく近くでくにの声が聞こえて俺は思わず「傍にくるな!」と叫んだ。


それから、少し離れた距離で国彦が謝ってんのが聞こえた。




ちがう


ちがうんだ。くに…


どうしたらいいのかわからない

この気持ちがなんなのか…



俺は、今までのままの自分でいられなくなるような気がして、ただただ困惑していた。


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