第18話
しばらくして川瀬が落ち着いたのを見計らって、事の次第をロミオさんに連絡した。
防犯ブザーの信号は本部とも連携しているから、あっちはあっちで動いてるだろうけど、
こう何度も入り込まれては、そろそろ雲の上から眺めてるような偉い人たちも文句言いだすに違いなかった。
本来の業務じゃないとは言え当然気分はよくないはずだ。
「くにひこさんと会わないって言ったの俺なのに…すごい後悔してたんだ」
ロミオさんへの電話報告が終わった後で、川瀬が言った。
「結局、離れてる方がずっと考えてた。ねえ、くにひこさんが他の人好きでもいいから一緒にいたい。」
そう言われて、どこか俺の中で心が決まってしまった。
川瀬の名を呼ぶと、俺のいつもと違う雰囲気を感じ取ったか川瀬はいつものおちゃらけた口調で言った。
「ねえねえ!俺いいこと思いついたんだ。くにひこさんが好きなあのヒトの前でわざとヤキモチやかせるようなことするの。ヤキモチ妬かせて、自分の気持ちに気付かせるんだよ。相手がなびいてきたら、あれはただの遊びだとか無理に押し切られたって言って……それで…」
「川瀬、」
もう、無理してしゃべんなって諭すようにその目を見つめると、川瀬は少し口を閉ざしたけど、それきり観念したように、また力なく泣きそうになって今度は俯いたまま小さく言った。
「俺はもう…なんでもする。くにひこさんが嬉しいと思うこと、なんでもしたい。こんな気持ちはじめてだからそれだけでいいんだ」
俺は、川瀬の流れてる涙を手のひらでぬぐうとそのまま前髪を押し上げてから口を合わせた。
唇を離しても、川瀬はただ驚いて呆然としていた。
「……今の」
「ん」
「今の何」
…何って…
「キス!!キスだよ!!!俺からしかしたことなかったの!!キスだけは!!」
あまりの勢いに、「キスキスうるせえな」って俺が笑うと、川瀬はすっと力が抜け切ったような表情でつぶやいた。
「……ねえ、俺くにひこさんのこと好きでいていいってことだよね」
俺はずるい。
返す言葉を更に深いキスで塞いだ。
答えだと思ってほしかったのが半分、
もう半分は正直、まだれえの事を想う気持ちが鮮やかすぎて言葉にならなかった。
それでも川瀬を想う気持ちに嘘はなくて、弱った心を今すぐ解きほぐしてやりたかった。
同情かもしれない。
それでも今は少しでも川瀬に寄り添ってやりたいと思った。
次の日、学校越しに本部から通達が来た。
もう少しで川瀬が寮を出て、正式に陽菜と同じあの児童養護施設に入る事になる。
そうすれば、川瀬の保護は俺の手を離れて、KBP本部に移る事になっていた。
俺の携帯が鳴った。
ロミオさんからだった。川瀬の件だと思いすぐ通話ボタンを押すと、想像のななめ上のテンションで瞬時に電話を切りたくなった。
『おーい、礼が甘えん坊病だ。俺にメロメロしてて可愛すぎて困るんだけど』
「や、……うるさいっす」
『挑発に鮮やかに乗ってくんなよ、ガキめ』
「…どうしてますか」
『俺?うん、ま、割と調子いいかなあ』
「いや、…わかってんでしょ」
『…おもしろいなお前は』
「こっちの台詞ですよ」
『精神的な問題が大きくてさ、また入院延びそうだ』
ロミオさんが情緒不安定なのかってぐらい、突然真面目に答えられて拍子抜けしながらも、れえを思うと言葉に詰まった。
まあ、ロミオさんに関しては、実際情緒不安定とこれほど真逆の人間もいねーだろうけど。
「…延びるの、これで二回目ですね」
『熱が引かない。原因わかんないみたいでな。』
ロミオさんが大きくため息をつきながら言った。死ぬとか死なないとかって話じゃないけど、病状としてあまり芳しくないのが伝わってきた。
『まあ不安で、にいちゃんにいちゃんって甘えてくるから別に礼がずっとあのままでもいいけど。俺が養う』
「切りますねー」
『ちょちょちょ、おい、未来の上司に向かってお前』
やだな…こんな上司
れえの体調が戻らない、か
俺はまた何もできなかったのか…
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