第16話

倉庫を出て、KBPの車で寮の近くまで送ってもらった俺たちは少しゆっくりとした足取りで寮までを歩いた。


「悪かった。会わせないって言ったのにな」

「うんう、俺がごめん…」

あきらかに落ち込んだ様子の川瀬にいつもの陽気さは当然感じられない。

肩の力も落として、沈んだ表情だ。

「川瀬?大丈夫か」

「…くにひこさん、怒ってるでしょ。くにひこさんの大事な人の事、傷つけちゃったから」

「お前のせいじゃないだろ」

「俺にも一端はあるよ。あいつが言ってた通りだもん…。俺だってたくさん悪い事した。今更あいつと違うなんて言えないよ」

「言えるよ。俺が言ってやる」


川瀬が立ち止まった。

振り向いて川瀬が歩き出すのを待っても、俯いたまま動き出せないような様子だった。

「……きだよ」

「…?」

俯いてる顔を覗き込むと、川瀬はその顔をそっと俺に向けた。


「前よりもっと好きだ。わかってるのに…」

「…川瀬」

「俺くにひこさんともう会わない。もう、近くにきちゃ駄目だからね」


そう言うと、川瀬は寮の方に走っていった。





翌日、学校が終わり、ロミオさんから病院と病室を教えてもらった俺はれえの入院先に向かった。

病室の前まで行くと、そこには今まさに病室に入ろうとしてるロミオさんがいた。

入る直前でロミオさんは俺に気付くと、小さく手を振って先に病室に入った。


「礼~!兄ちゃん来たぞ~」

病室の外まで聞こえるあまっあまな声…

俺が病室まで辿り着いたころには、すでにロミオさんはベッドに腰掛けてれえの額を撫でてた。

居心地悪くて、その光景から微かに目をそらしたけど、それでもれえの様子が気になって思い切って部屋に足を踏み入れた。


「よお、来たな」

ロミオさんが言った。

「くに…」

れえは俺と目を会わせると、少し驚いたような表情をした。

口もとにガーゼ。胸元のコルセットが少し見えていた。

痛々しいその姿に、ぐっと胸が締め付けられる感覚のまましばらく言葉も出ず、それでもれえから目がそらせなかった。

久々にこうしてちゃんと顔を合わせたれえは、少しとまどったように目を泳がせている。もっと傍に寄ろうと足を動かしたその時、れえが顔を隠すように毛布に潜った。

「礼どうした?」

「れえ…?」

もっと近寄って呼びかけると、毛布の中から「傍にくるな!」と強い口調で言われた。

それから続けて

「会い、たくない…」


そう聞こえた。




そりゃそうか。


昨日あんな怖い目にあった上に、更に目の前で怖い思いさせたもんな


それに、あの日屋上から追いかけた挙句、乱暴に抱きしめて

言葉にもならない想いを一方的に無理矢理その身体に押し付けた



れえの為に、想いを断ち切ると決めておいて

ぜんぜんれえの為になんかなってない

むしろその悲壮感に酔って想いが暴走してる


独占したい

誰にも触れられたくない


傷つけたくない…





ダメだ

これ以上好きではいられない



「れえ、ごめんな」



俺は病室を後にした。

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