第14話

翌朝早いうちに支度を済ませて玄関まで出ると、

施設の職員、子ども達、今度は上機嫌の陽菜も皆笑顔で見送ってくれた。


しばらく歩いて施設から離れてしまうと、もう当たり前みたいに川瀬は俺の腕にぴったりくっついてくる。

川瀬の方を見ると川瀬も俺の方を見上げて微笑む。


ちょっと、

懐かれすぎたなー…

てゆう、よくわからない危機感感じてたら俺の携帯が鳴った。


消し忘れのアラームか、それかロミオさんからだと思ったのに、

どちらもハズレだった。


着信はれえからだった。


一瞬戸惑った、気もするけど

俺はそれでもすぐに通話のボタンを押して耳元に携帯を押し当てた。


「…もしもし」

問うても数秒間言葉らしい言葉は聞き取れなかった。

耳には雑音と、遠くで確かに小さな吐息のようなものがかろうじて聴こえた。

それが異様で、妙な胸騒ぎがする。

「れえ?」


『……くに、』

震える上ずったれえの声に、背筋がぞくりと泡立った。

いつもと明らかに違う弱々しい声だった。


すると間髪入れず、大きな摩擦音でれえの声がかききえた。

「れえ、どうした?」


そして、明らかにれえのじゃない、荒い吐息に変わりそのまま興奮した様子の怒声が耳にぶちあたった。

『おい、今柚稀近くにいるんだろ?わかってるんだ、出せ今すぐ出せよ!』


「…あんた、木下か」


川瀬の表情が、その名を聞いて瞬時に曇る。

木下は俺の問いには答えず

『出さないなら俺にも考えがある、俺はもう終わりだこわいもんなんかないんだ。早く柚稀を出せ』と続けた。

目の前の川瀬は不安そうに俺を見ている。

明らかに怯えた表情の川瀬を確かめながら、つとめて冷静になろうと小さく息を吐いてから言った。

「……今、近くにいない」

『お前のせいで俺はめちゃくちゃだ。いいか、海岸沿いの南倉庫にいる。

誰にも言わず、ゆずきをつれてこい。一時間以内だそうしなければ、こいつを殺してやる』

スタンガンが弾けるような音がして、その奥でれえの声が聞こえた。

途中で電話はプツリと切れた。


「くにひこさん」

川瀬は心配そうに俺の顔をじっと見上げて聞いた。

「今の電話あいつから?何で…?」

「本部に連絡するからお前寮にいろ」

「いやだ、俺も行く」

「………」



なんでだ

なんでれえが

ただ怯えてただけじゃない

思うように身体に力が入らないような声だった


もし れえがこれ以上傷つけられたら



数秒間、頭が真っ白になるほど混乱した。冷静さを取り戻そうとするけど

とてもじゃない


吐き気がする


もう泣き出しそうなほど必死な表情の川瀬を、まさかここに置いていくわけにもいかず

俺はその腕をとるとそのまま木下が指定した海岸までの道程を急いだ。

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