第12話
翌日、予定通り寮の門に向かうと、そこにはすでに川瀬が待っていた。
俺を見つけると小さく跳ねながら手を振ってくる。
結局、木下とどういう付き合いなのかわかんねえけど、
初めて見た制服以外の川瀬は、むしろそれどこで売ってんのってゆうくらい可愛らしい私服だった。
セーラー襟が違和感ねえ男子中学生か……
れえでもこんな格好したらさすがに違和感でるな
最近ちょっとずつ背も伸びてきてたしなあ
……や、似合ったところで、そもそもこうゆうの嫌がりそうだ
ひざ下ちょっとの短めのパンツに、細身で女の子が履くようなブーツを履き、うっすい何入るんだってリュックと、あとなんかふわっとした帽子て…
ほんとデートか…
まあ、女の子に見えなくもないし目立ちはしないだろうけど、どこまで出るにしても人込みは避けたい
こんなん木下からしたら餌ぶら下げてるようなもんだもんな。
「かっこいいかっこいいかっこいい」
ってぴょんぴょんしてるけど、そんなおもいっきり気張った格好の川瀬に比べると
俺は夜会う時の部屋着とそう大差ない格好だったし
嬉しそうにされるともはや恥ずかしさなんかを通り越して無になる。
いや、やっぱ悪い気はしないか…
喜んでる意味は置いといても、川瀬が年相応に無邪気にはしゃいでんの見ると、心底良かったと思えるしな。
寮を出て電車で二駅、各停しか止まらないような、とりたててなにか大きな施設があるわけではなさそうな住宅地の駅で降りると、
そこから15分ほど歩いて目的の場所に着いたらしく川瀬は足を止めた。
そこは古びた様相の児童養護施設だった。
慣れた足取りで施設内に入ると、入ったすぐの所にある事務室にいた女性職員たちが数名玄関まで出てきた。
「ゆずくんおかえり~!」
「ただいまー!」
「やだっ今日も超可愛い」
へえ、男と接してるとこしか見た事なかったからだけど、
基本が人タラシなんだな、こいつ。
愛されてんのがわかる。
「こんにちは」
一番年配の職員の人が俺ににっこりと挨拶した。優しそうな笑みだった。
俺も会釈して返した。
「五嶋国彦さん。どうしても妹会わせたくてさ」
そんな話をしていると、声が聞こえたのか誰かが呼んだのか、玄関に少女が走り込んできた。
一目で川瀬の妹だとわかる。まんま川瀬を女の子にしたようなかわいらしい少女だった。
「ひな!」
「おにいちゃん」
川瀬がぎゅっと少女を抱き寄せた。
「会いたかった、ひな」
「どうしたの」
「ひな、これからはもう一緒にいられるんだよずっと」
「ずっと?」
「くにひこさんがお金ちゃんとしてくれたんだ」
「…くにひこさん?」
じーっとその大きな眼で見つめられる。
違う違う……けどまあ、いいか。他に説明のしようがない。
丁度昼飯時で、そのまま部屋まであげてもらい子どもたちと飯を食った。
やんちゃ盛りの子供達は見知らぬ人間がいるだけでも興奮して部屋を走り回った。
兄弟のいない俺はなにもかも新鮮で、無邪気に近寄ってくる子供達と接しているうちにあっと言う間に日の暮れる時間になっていた。
帰ろうとすると、川瀬の妹、
せっかくひさしぶりにこうしてゆっくり会えたんだろうし、川瀬の方もそんな妹を置いて帰れるような雰囲気じゃない。
「おにいちゃんと一緒に寝たい。ずっと一緒にいられるって言ったもん」
「ぜんぶちゃんと終わってからだよ。それまでは頑張れるでしょ?ひな」
「やだよ、やだ」
どうにか説得しようとするが、陽菜は大きな声を上げて泣き始めた。これまで精一杯我慢してきたものが溢れているみたいだった。
「泊ってくか?川瀬」
「え」
「いいよ。ここ最初から警備対象だし。明日の朝迎えにくる」
「なら、くにひこさんも一緒にいようよ。」
「帰るよ。お前はいいけど、俺までいちゃ迷惑になる」
ふと、右腕にぴたりと小さなてのひらの感触があって見下ろすと、懸命に陽菜が俺を見上げていた。
「ひな、くにひこさんも一緒がいい」
…兄貴ゆずりだな…上目づかい…
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