第11話
数日が経ち、れえとは顔を合わせない日が続いていた。
友達にあんな狂気みたいなもん押し付けられて平気な奴などいない。
もし避けられてるんだとしても当然だ。
俺は授業サボってたのを木下先生に見つかったあの一件以来、近づくなって言われていたけど、
最近すっかりお決まりの定位置になりつつある屋上のベンチに座り、ぼんやりコーヒーを口に含んだ。
相変わらず、ここは穴場で落ち着く場所だった。
「くにひこさん」
背後から川瀬の声がした。振り向こうとすると、俺の目の前に何かの紙がすっと差し出された。
それは、相手の会社の判が押された、借りたお金は全額返済済みであることの証明書と、不当な契約の元で働かされていたという事実を会社側が認め、契約を破棄する文書だった。
さすが仕事早ェ…ロミオさん。お見事。
「おー」
「急に、会社の方から縁切るって、こんなの…」
「うまい話過ぎて怖いか」
「ちがうよ、会社の名前もださなかったのにどうして」
「もう金の心配はないってことなんだろ?」
そう言ってる途中で川瀬はぎゅっと後ろから抱きついてきた。
「なんで俺の為にこんな事してくれるの?俺何も返せないのに」
「別に、お前の為じゃないよ」
実際俺の手柄でもない
「それでもいい」
いつもの川瀬の茶化したような声ではなくあまりにも素直な答えに、俺はどんな顔で言ってんのか気になって川瀬の表情をのぞき見た。
目があった川瀬は涙目で、あの妖艶な表情からは想像できないほど、今は普通の14歳の少年そのままの顔だった。
「住む場所とかは?お前アテあるのか。親戚とか」
「妹も安全なとこにいるし、俺は、本部のヒトがこのまましばらく寮にいた方が安全だからって」
「へえ。ならよかったな」
KBP本部の捜査の結果、木下先生はシェイドとの繋がりがかなり濃かった様で、その日のうちに学校は解雇処分、そして学校の敷地内及び学生との接触を固く禁じられ、KBP本部監察対象となった。
川瀬の方は、色々と取り調べみたいなもんが今後続くのと、報復の恐れもあるためしばらくは行動を制限されるらしい。
「ねえ、明日お休みだし一緒に行って欲しいところがあるんだけど」
川瀬が俺の目前に回ってきて、さっきより幾分明るい表情で言った。
「俺、誰かKBP側の監視がないと外出れないし。くにひこさんとどうしても行きたくて」
「どこ」
「ないしょ」
「…?」
「デートみたいだね」
………。
明日寮の門で待ち合わせる約束すると、笑いながら花散らして川瀬は屋上を去って行く。
呆気にとられてしばらくそのまま呆然としていたら携帯が鳴った。
ロミオさんだった。
仕事の速さに感謝しようと言葉を選んで、通話ボタンを押したが、間髪入れずロミオさんの方が口火を切った。
『よお。保護対象の学生、お前が面倒見ろ。いいな。最重要案件だ、学校の規則は必要な時は無視していい。辞令は本部から学校にじき届くから』
「…は、」
『木下、接触とってくる可能性高いからな。必要に応じてバックアップする。』
「わかりました」
ありがとうございましたって言おうとしたところで電話は切れた。
どうやらロミオさんのそばでは数人の声が錯綜していたし、いつもより端的な口調に、自分が想像していたよりも少し事態は
あまりの一方的なスピードに、伝えられなかった明日の外出の件をロミオさんにメールで飛ばして、午後からの授業に戻った。
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