第10話
「....ウソ、うそだよ。好きになっちゃったんだ、ホントに。どうしよう。おれ、ハジメテで、わかんない。」
「待て、」
いやこれ…わかんないって触り方かよ
それか笑わせにきてる…わけないから、いっそ健気に響いた。
「好きになってくれないの」
「ごめんな」
自分のれえに対してのかたくなな想いの反面に、
いつのまにか川瀬を特別な感情で見ている自分に気付いた。
懐かれて情がうつったと言えばそうなのかもしれない。
弱った川瀬を守れるものなら守ってやりたいとも思った。
それは世間一般で言う紛れもない恋情だったのかもしれない。
だけど、どうしてここまでれえに執着するのか、自分でも説明できない。
「屋上に来たあのヒトの事が好きなんでしょ」
「…ああ」
「すぐわかった」
昼の事を詫びようとしたら、見上げるようにして川瀬が口を合わせてきた。
「俺のこと好きじゃないのに、こんなに優しくするの、ずるいよ」
言葉とうらはらに、川瀬はしばらく俺から離れる事ができなかった。
単純に目が見えないという不安と緊張で身体が随分疲弊していたからだった。
翌朝、
礼の事もあって安易に頼りたくはなかったけど、川瀬の薬の事で少し気になることがあって俺はロミオさんに連絡をとった。
「話したい事があります。今日どこかで会えませんか?」
『おー、大人じゃねえか。いいぜ、放課後バイクで迎えにいってやるから正門で待ってろ』
放課後、
約束どおりロミオさんはピカピカの新型バイクと一緒に正門前にいた。
スーゲー目立つ。
「どうも」
「おお、さっさと乗れ」
ぜってー礼にはしねえあっさり感だな。
まあ、いーけどさ。
街中にある喫茶店の個室に通してもらった。
俺はあの時川瀬の手元から毀れ落ちた、薬らしき小さな薬包をロミオさんの目前に提示した。
「この薬を見てもらいたくて」
「どこで拾った?」
「学生がもっていたものです」
薬包の紙には“08997な‐K”というおそらく識別番号らしきものが記されている。
ロミオさんは手にとるとまじまじ見つめ険しい顔をした。
「....たち悪いな.」
「シェイドのものだと思って、確かめていただきたいと」
薬から、すっと目線を俺に向けたロミオさんの眼は少しの間虚をつかれたようにじっと俺を見た。
川瀬が視力の神経だけを一時的に、ある意味綺麗に狂わされたという点、
川瀬の持っている薬、そして、木下先生のあまりにも挙動不審な様子が俺には一つに繋がりつつあった。
確信はなかったが、今のロミオさんの対応で俺の読みはほぼ当たっているのがわかった。
学校の母体であるKBPのいわば敵対組織ともいえる、通称シェイドは、薬草、毒薬、漢方、麻薬あらゆる薬物に精通している。
そのシェイドから、諜報であれ寝返りであれ、何らかのさぐりが潜り込んでいてもおかしくはない。
「へえ…シェイド知ってたか。その薬がうちの末端とはいえ学生間で見つかるのはさすがにいただけないな…。良くできたね、おまえ。今回だけはほめてやるよ」
「よろしくおねがいします」
「俺に頼るのは妥当な判断だな。お前にゃ荷が重すぎる。」
くそ、一言多いつうの
「つか、気持ち悪いなーちゃんとした敬語」
「いいでしょ」
少しの沈黙があった後で、同時に「礼は」と思い切ったようにいった声の重なりに
俺はただただオエ…って思ってたけど、
ロミオさんは腹抱えて笑った。
「礼なんかお前に言った?」
「…だから、言ってこないっつってるでしょ」
「へえ…そりゃかわいがってやんないと」
「あ?」
…たのしくなってんだろソレ言うのくそ……
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