第7話
「“くにひこクン”」
…川瀬だ。
「あれ?怒った?くにひこ先輩こうゆうの好きかと思ったのに」
「...なにしてんだお前授業受けてないの」
「くにひこ先輩こそ。どうしたの?朝すごく優しかったのに、怖いよ」
ああ、こいつもなんでそんなこと言いながら近づいてくんのかな…
「機嫌なおして、よしよし」
そうあやされながら、川瀬に頭を撫でられてバツリと自分の中の何かが途切れ、
気付いた時には、そのまま川瀬を強く自分のひざ元に引き寄せるとその首元に噛みついていた。
「ン、ちょっと、んーッ…せんぱ…」
「怖いつっといて...隙だらけで近寄ってくんな」
「ん、たまん、ない。…乱暴にされんのスキ」
黙らせるために口を合わせようとしたその時だった。
「国彦!!」
屋上の入り口扉の方からほぼ怒声みたいな強い口調で呼ばれて、俺と川瀬は揃って目線をその入り口の方に向けた。
そこには、息を切らして肩をゆらしているれえの姿があった。
「....、と....悪い」
さっきの声がウソみたいに、バツの悪そうなれえの声に俺はただただ呆然とすることしかできない。
そうしているとれえが、とぎれとぎれ言葉を選ぶようにして続けた。
「教室から、お前見えて、なんでサボんだろとおもって、追っただけなん、だけど....ごめん」
言いきってしまうと、勢いよくれえは階段を駆け降りていく。
追おうとする俺を川瀬が引きとめたけど、川瀬の事を気遣ってやる余裕のない俺はそれを半ば振り切るようにして、れえの後を追った。
すぐ下の踊り場で追いついた俺は、れえの肩をぐいと力任せに引きとめた。驚いたれえが小さく悲鳴のような声を上げたので、本当にいくらかだけ冷静な気持ちが俺に戻ってきた。
相対したれえは逃げようとはしないが、俺は、じっとれえの左手首を掴んだまま、れえの様子をうかがっていた。
れえが静かに言った。
「悪かったな、 少しびっくりしただけで、別に」
俺は正直、どう答えていいかわからず、首を二度横に振った。
「つき、……あってるのか…?」
言葉を選ぶように、それでもすこし恥ずかしそうにれえが俺に尋ねた。しばらく言葉が出ないほどぐっと切なさが胸に押し寄せた。なぜこのタイミングなのかはわからない。ただ、れえの心遣いが単純に痛かった。
俺はまた、今度は力なく首を横にふった。
「誰?みた事ねえ…」
「川瀬って、....後輩」
「お前、俺にそうゆう話しないから…」
「お前は」
苛立った声にれえが微かにおびえてんのがわかる。けど、俺は止める事ができなかった。
「....え?」
「昨晩ロミオさんに何された」
「....?」
戸惑うように、本当に覚えがないように眼をくるくると泳がせるようにしたれえの、まだ赤い痕が残るその首元を、およそ乱暴に押さえつけた。
そんな行為に、オロオロとしながらもすこしだけ思案したれえがハッと思い出したように瞬時に赤くなり、
そこでぷつりと感情の糸がと切れて、俺は怒りのまま礼を壁に押し付けながら強く抱き締めた。
ああ、
もうおしまいだ。
どんと、胸を押されて身体が離れたかと思うと、れえはもう俺に一瞥もくれず、一目散に走り去っていく。
その背中が見えなくなっても、とうてい動き出す事など出来なかった。
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