第6話


屋上から降りて、教室に向かう途中で丁度れえと会った。

遅れると思ったのか微かに息がはずんでいる。

俺と目が合うと、小さく頷いてそのまま近づいてくる。


「よお、れえ」

「よお」


どうやら昨日より落ち着いて対峙したれえに、どこかホッとしながらつとめていつもの通り話しかけた。

「外泊したろ」

「兄ちゃん家、あまがさ先生と泊った」

「…、へえ」


阿間笠先生…いたのか…

ロミオさんの昔からの親友なのに、ロミオさんと違って良識人というか、いつも生徒と教師の間に立って物事をとらえるような人徳者だ


ふいの情報に、俺は肩の力が抜けてしまった。


…なんだ…良かった

拍子抜けしながらも、逆立ってた心がゆったりと穏やかに波打ち始めた


のに、

ふとれえの首元に赤くあざの様になっているのが見えて、一瞬思考が止まった。

キスマーク…

いやまさか、

すごいスピードでいろんな可能性が頭を巡ったけど、どれもこれも自分の心を落ち着かせるにはたよりない可能性ばかりだった。


予鈴が鳴って、れえは俺に背を向けたけど、俺は思わずその腕を取った。

「れえなんかあっただろ」

「なんかって」

「ロミオさん家で」

「ないよ、……つうか」



れえはちゃんと俺の方を向いて何か言おうとしたけど、それきり言いにくそうに俯いた。

「....おまえこそ」

「あ?」

「なんでもない」


れえの感じからしてひどく動揺してるとか傷ついている様子はないから何ともとらえがたいけど、

あんな…

いつもなら言いたい事我慢なんかしないで、態度か言葉でわかりやすく伝えてくるのが常なのに

れえはなにもいわねえし

ああ、腹ん中モヤモヤして勉強どころじゃない

そのまま教室に入って授業が始まったけど、当然半分も入ってこなかった。


そんな事考えたくないのに、

誰かがれえを抱き寄せて首元に口をつけて、れえも抵抗するどころかその相手にぎゅっと抱きついてる姿を想像しては、微かな吐き気と、嫌悪感と、まぎれもない嫉妬が身体を充満していくようだった。


昼飯を食ってから休憩が終わる直前、俺は教室を抜け出した。

本鈴が鳴り始めた廊下には急いで教室に走り込む生徒だらけで、俺はその流れに逆行するように勢いよく廊下をすり抜けた。

途中、れえのクラスも通りちらりと目をやると、れえはもう窓際の自分の席に着いていた。一瞬目が合ったような気がしたけど、俺がすぐにそらした。


あー…くそ

かわいいな


そんな言葉が浮かんで、また嫌悪感が身体をめぐって消えてく。

俺は、それにできるだけ気付かないように、足早にいつもの道のりで屋上に上がった。

屋上は静かで、風にあたっているだけでいくらか冷静な気持ちも帰ってきたし気は紛れたが、じりじりとした想いだけどっしりと腹の奥底に残っているようで気持ち悪い。


背中で足音がした。

正直川瀬だと面倒だと思った。


今は、

色んな意味で

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