[礼の心]5

国彦に会ったら、

なにやってんだよおまえ、昨晩中庭で見たぞってからかってやろうと思ってたのに、

どうしてもそんな風に言えなかった。


俺、変な態度だったよな


何度思い出してみても、国彦の前にいたのは制服着たこの学校の生徒で

馴れた様子で傾けた顔を近づけて、

それから……


俺変だ、混乱して国彦にどう接していいかわからないなんて。


国彦は普段感情や思いをあまり大袈裟に出す方じゃないし、

ふと、俺は国彦の事なんにも知らないんじゃないかと急に思った。

こんなに長く一緒にいるのに。


放課後、部活も終わって校庭の隅でぼんやりそんなことを考えていると、目の前の廊下を、兄ちゃんと中学の時の担任で兄ちゃんの親友のあまがさ先生が通りすがった。

「礼、部活おわったのか」

「にいちゃん!」

「今からあまがさと飯食いにいくけど、お前も来る?」

「飯!食う!!」


なんか飯って言葉と、兄ちゃんのこわい雰囲気じゃないいつもの感じに少し気持ちが 軽くなる。

俺は兄ちゃんのバイクの後ろに喜んで飛び乗った。


しばらく心地いい風にあたりながらながして行くと、大きな道路を挟んで海が望める大型のリゾート風の人気レストランに着いた。

店のど真ん中にヤシの木とかはえてて、ゆったりした席は南国風のインテリアで統一されてる。


「礼なに食うの」

「俺、ステーキとハンバーグのセッ...って俺金ないよ」


って心配になって聞いたら二人が吹き出した。

なんで??


「お前から金とんないよ遠慮なんかすんな、食え食え!」

って笑いながら兄ちゃんが答える。

「どうしたー?こないだ俺が子供扱いしたからか?脅して悪かったって」

「お前な、またなに言ったんだよ。高校生を子供扱いすんなよ、いろいろ考えてるし、悩みだって複雑だぞ、最近の高校生は。なぁ、柏原?」


あまがさ先生は中学の頃から変わらない優しい笑顔で言った。


「いや、だから、礼ががんばって気きかそうとしてんのが健気でかわいいだろって言ってるんだよ俺は」

「ほんと病気だなお前」


そうこうしてる間にハンバーグとステーキセットが来た。

腹が減ってた俺はとにかく一心不乱に頬張ったけど、

食べてる途中でどうしても気になってあまがさ先生に聞いた。


「先生はさ、兄ちゃんとすげー小さい頃から友達なんだよな」

「ああ。小学校の低学年くらいからかな、どうした?」

「恋愛の話とかどのくらいからした?っつうかした?」


先生は口に含んでた水を少しだけふいた。


「恋愛か...、まさか柏原からそうゆう話を聞くとは。どうしたんだ、好きな子でもできたか?」

「いや、俺の事っていうか、親友。俺以外にはそうゆう話してるかもしんないけど、聞いたことなくて。なんかずっと一緒にいんのに、あいつのこと何も知らねえなっておもって」


兄ちゃんが真面目な顔で聞いてくる。

「不満なのか?」

「不満つうか...単純に、ふつう友達ってどうなんだろうと思って」



先生は、少し思案しながらおもむろに答えた。

「俺たちはわりとそうゆう話もした覚えがあるけど、みんながみんなそうじゃないと思うぞ。きっと、仲の親密具合にかかわらず、そうゆうことに詳しい、先輩とか友達に話聞いたり相談するやつもいるだろうし」

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