第4話

放課後になり、れえのクラスをのぞきに行ったけど、そこにはもうれえの姿は見当たらなかった。

そのまま寮に帰って食堂で飯くってるところに、ロミオさんから着信があった。

微かに嫌な予感がする。


「何、今飯食ってんですけど…」

『喧嘩腰じゃねえか。いい度胸だねお前』

電話越しでもわかる、ニヤついた余裕ある声が腹立つな、くそ…


「何すか…」

『礼今夜うちに泊めるから、お前礼の外泊届出しとけ』

「…あんたれえに昨晩なんかしたろ」

『礼から何か聞いたのか?』

「……なんも」

『へえ、誉めてやんないとな』


……

マジヤメロ、ほんと


その場にれえがいる感じのしゃべり方じゃなかったから、れえが今どうしてるのか聞こうとしたところで電話は一方的に切れた。


ああ、なんなんだよ。


辺りかまわずあたり散らしたいのを必死で堪えて、途中だった飯を全部勢いでかきこんだ。



さっさと寝ちまおうとベッドに横になったけど、当然のことながら、全く眠れなくて

日付が変わって少し堪えると、それでもまだ明け方暗いうちに学校に向かった。

途中で買った缶コーヒーを一つだけ手に屋上に上がり

こんな時間に当たり前だが、人気が無いのを確認してベンチに腰掛けコーヒーを一口口にふくんだ。

遠くに朝日がゆっくりと光を放ちはじめた頃合いだった。


あきらかに様子がおかしかったれえと、昨晩の外泊。

少しでも何かあったら普段はメール送ってくるのに、昨晩は何も連絡寄越してこねえし…

イライラした気持ちが、また喉元辺りを刺激するようにこみあげてきた。

堪え切れずその場に前のめりになるのを、背後からぐいと引っ張られた。


「だーれだっ」


聞き覚えのある、変声期前の、艶のある声。

だ…


「…かわせ」

「正解~!よくできました。ごほうび」


川瀬はそう言うとそのまま俺の首に腕をまわして、後ろからふんわりと抱きついた。

苛立ちからのあまりの落差に、俺はただ呆然とその温もりを受け入れた。

そして、そのまま川瀬が立ち去る様子がないので、

ようやく姿を現した太陽をじっと見つめたまま、ぼんやり聴いた。

「お前なんでこんな時間にこんなとこいんの?教師と逢引きにしちゃ早すぎるだろ」

苛立ちが少し言葉をとがらせた。

それでも川瀬は俺の耳元でそっとどこか楽しそうに、自嘲的に笑いながら言った。

「逢引きの予定だった夕べ、別れたいって言ったらカレシめちゃくちゃキレて、酷い事されて、さすがの俺もぶっ倒れて今までそこの倉庫で気い失ってて」


俺は川瀬の方に振り向いた。

あまりに急な動きに、川瀬は少し驚いたような顔だったが、目が合うとすぐに嬉しそうに笑んだ。

微かに笑んだ左の頬が青く変色していた。

ざっと確かめただけでも、そこかしこに擦れたような傷や、圧迫されうっ血したような跡が見えた。


「マジかよお前」

「いててて、笑うと痛いや、ねえ、横に座ってもいい?」

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