第2話
俺は、手を引かれるまま、
煽られるままに中庭を越えたところにあるまだ空室だけの二号棟に足を踏み入れた。
辺りは暗く静かで、ただ俺の手を引く目の前の少年の赤い髪が闇の中でふわふわと音もなく揺れる。
二号棟に入ってすぐの部屋がさも自分の部屋であるかのように、慣れた手つきでドアノブに手をかけると勢いよく扉を開け先に俺を通した。
いくらか現実味のある感触に、徐々に冷静さを取り戻す…
というより、正確には一瞬上がった身体の熱が確実に下がったのを感じながら、
今更後に引く気にもなれない
そんな俺の心を感じ取ったか、玄関で靴を脱ぐ間もなく、そいつは自らのワイシャツの襟を閉めていたタイを緩めると、2、3ボタンを手早く外してみせた。
挑発するような微かな吐息に、もはや健気さすら感じた俺は、そいつが俺の服に手をかける寸前で
両手首をつかんで半ば強引に壁に押し付けた
いきなり自由を奪われても
微かに期待するように、じっと上目遣いで挑発され
そこからは展開もあっという間で細かには覚えていない
口合わせた時は、ほんとにプロの娼婦なんじゃなかろうかと思ったけど
身体合わせたらわりと若かった
って俺が思っていい台詞じゃねえけど
聞くと空室しかないとおもっていた2号棟のこの部屋は、ちゃんとこいつの部屋で
冷静に見渡すと、俺たちの部屋より心なしか設備が整っているので何故かはわからないがこいつが特別な扱いを受けているのがわかる。
「なんで、こっちの来年の新入生が入る棟にいんの?他に誰かいるか?」
「うんう?俺だけ」
「…へー」
「あーっっうんうぼくだけ!」
「?別に俺でもいいだろ」
「えーっヤダよ。ぼくのが可愛いでしょ!!」
「へー」
「興味なさそう」
「ないなー」
冗談で笑いながらいうと、なんかすげー嬉しそうにもっと虐めてーって尻尾ふってくるのがわかる
なまじこいつにMっけがあるばかりに、加虐心ばんばん刺激されてる俺は本当にどうかと思うんだけど
こいつもこいつで
きっと特別入学とかそうゆうノリなんだろうに、
その特別ルームをこんな風に使うとかな
本来二つネームプレートが入るところに、『川瀬柚希』
とだけ記されていたからかわせってよんだら下の名前で呼んでほしいらしい
ゆずき、か…すげー乙女チックな名前だな
「僕にも名前おしえて」
「五嶋」
「下の名前で呼びたい」
「国彦」
「くにひこせんぱいかあ…」
「先輩じゃねえよ、俺も一年」
「え?そうなんだ?大人っぽいから」
「お前も一年だろ」
「うんう。僕まだ入学してないから。特別入寮してるだけ。だからせんぱいだよ」
え、これ、中学生なのか…
あー……
なにやってんだ教師…いや、年近いだけで、俺も同じか
「ねえ、明日ここで会える?」
「もう来ない」
「お…僕よくなかった?」
「俺って言えよ。俺でぜんぜんいいじゃん」
笑いながらいったら、かすかに川瀬の表情が弛緩したように見えた。
「むしゃくしゃしてた。だからもうオワリ。お前もあんまムチャすんな。な、」
「むしゃくしゃって?」
「失恋」
「失恋したの?」
「みたいなもん」
「なら俺がくにひこ先輩の恋人になりたい」
あ?
川瀬がぎゅーっと両手で俺の腕をつかんだ。
それからぐいっと顔を寄せて上目づかいで見上げてくる。
使い慣れてるな…
「俺、もっといっぱいいろんな事できるんだよ」
川瀬が俺って言い始めて急にれえの顔がリンクした。
間接照明に照らされた川瀬の顔は、礼とはまったく似ても似つかない。
のに、見上げてくる感じとか、賢明な空気がそうさせているのかもしれない
じりっとした想いを脇に追いやり、川瀬から離れた。
川瀬は一瞬寂しげな表情になったけど、すぐににこりと笑って手を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます