三章

第1話

れえの寮部屋でしばらくれえの帰りを待ったけど、待てば待つほど苛立ちの方が大きくなった。

諦めると決意したはずなのに、こんなことで心をかき乱されるような、そんな自分にも腹がたった。


自室に戻ろうとしたけど気持ちの整理がつかなくて、

俺は、もう人ひとり通る事の無い、寮の中庭のベンチに腰掛けてぼんやりと月をながめていた。

夜風はまだかすかに冷たくてじりじりとした心を癒してくれるような気がする。


こんなに遅くなるなんて、もう場所はわかっていた。

おおよそロミオさんの新しいバイクにつられたか…

バイク好きだもんなれえ。

オトナはほんと、卑怯だ。



けど、幸い

なのかそうでないのか

れえはおんなじゃねえし

嫌な事は嫌だっていうし

あのオトナもムリな事はしないという不思議な安心があって

俺はムリヤリ心を落ち着かせようとしていた。

あんな状態のれえにちょっかいだせる奴など

いたら本当のきちくだ。


そこまで考えて、逆立った心がほんの少し癒えた。


だけど

“俺”は、結局れえをどうしたかったのかな

れえの事抱きたかった?

ただ俺自身が気持ちよくなりたかった…?

ただの単純な性欲だったのか…?


けど、

なんでこんなに礼だけ特別なんだろう


どうしてこんなに喪失感が止まらないんだろう



ぐっと悔しさのような苦しさが胸を締め付けた。

力を込めてつぶった目にかすかな月の光がもれてくる。

その光が突然ふんわりと遮られた。

ゆっくりと目を開けると、逆光でよく見えないがふわふわとした癖っ毛が明るい赤色をしているのだけがわかった。


「となり、座っていい?」


静かな夜に、艶のあるひそやかなささやきだった。

俺はそれでも反応するのが億劫で、ぼんやりとその目の前にいる少年の顔をただ眺めた。

あれ、

どこかで見た事がある


「さみしそうだからさ」


あ、屋上で教師とあいびきの…

考えている間にそいつは俺の隣にとすりと座った。


「屋上で会ったよね」

「ああ。こんな遅くに何してるんだ」

「あなたは何してるの」


ぶらぶらさせていた足をすっと組んでそいつはじっと俺を見ながら言った。

なんか妙に色気があるというか。

まあ教師たらしこむくらいだもんな。


厄介な事にまきこまれんのも、面倒だ。俺は適当に、むしろできるかぎりそっけなく答えた。

「別になにもー」

赤毛の少年はそれを聞くと同じようにそっけなく答えた。

「じゃ、僕も、別になにもー」


言ってから、ぴょんと椅子から飛んで立ちあがったので立ち去るのかと思ったら目の前に来て俺の顔を覗き込んでくる。

いよいよ、ヘンな奴

俺は不意に笑ってしまった


「なに」

「おにいさん、やっぱり好みだなぁって」


あんまりテンプレみたいな言葉に「何だそれ…プロなの?」って冗談めかして言ったら一瞬そいつの顔が曇った気がしたけど、

逆光でその表情はやっぱりはっきりとは見えなかった。


「店どこ?安くして。俺金ねえよ」

「行った事あるの?そういうお店」

「ないよ。あんまり芝居じみてる言葉だからおもしれーなと思って」

「嘘じゃないよ。屋上ですれ違った時、あ、かっこいいなー、いい身体だなー、あんな奴と別れておにいさんと付き合えないかなーっておもったんだもん」

「あんな奴って、教師?」

「うん」


赤毛の少年は無邪気に頷いてから、途端妖艶な笑みで微笑んでくる。


「いけないかな」

「…さあ」

「興味ない?」

「まあ、ねえな」

「スキ…そうゆうの、すごく燃える」


灯りがふと消えたような感覚だった。

唇があわさっているのか、なんか菓子でも食ってんのかってくらい

女子高生並みにふわっと砂糖菓子みたいな香りがした



アレ?


と思って感覚をまさぐってもまさぐっても、

実感がわいてこない


何度か挑発するような噛みつき方をされて

もう、ほんとのプロじゃねえかなってゆう感覚だけはっきりしてきて

それから理性を閉じた


なんかすごく、試されている気がしたから

俺はもどかしくて、

勢いよくそれに乗った。

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