[礼の心]2
しばらくして、扉が開いてくにが帰ってきた。
「よーれえ、あれ?稲城は」
「なんか…どっか行っちゃった」
「へえ。あ、れえ食う?」
くにはそう言って、
手に持っていたビニール袋からアイスを取りだしてかざした。
自分の分は器用に口と片手であけてくわえると、稲城の分は小さな冷蔵庫の冷凍室にしまった。
「ロミオさんからメールあったか?」
「いや、ない」
「ま、あんま気にすんな。ゲームしようぜ」
「うん」
くにのこうゆうとこ。
正直、
昔からすげーホッとする。
フラットっつうか
波がないわけじゃないのに
その落ち着いた声と言葉を聞くと
いつもの俺でいられる様な気がした。
翌日、授業中も兄ちゃんの事を思い出して身の入らない時間もあったけど、
昨日より少し不安が薄らいでる。
不思議だ。
くにが大丈夫って言ったことは不思議と俺の心に響いて信じられる。
なんかすげーシャクだけど。
部活が終わって薄暗くなった校門に向かった所で、ロミオ兄ちゃんの姿が見えた。
俺は、あまりに複雑な感情が溢れてきて自分でも恐れなのか嬉しいのかすら分からず完全に歩を止めて固まってしまった。
「よう礼」
にっこり笑った兄ちゃんは拍子抜けするぐらいいつもの兄ちゃんだった。
……なんだよ
散々悩んでくににまで話した俺なんだったんだ。
体からどっと力が抜ける 。
「なに怒ってんだよ礼」
「兄ちゃんが変な冗談ゆうからだろ」
「冗談じゃないよ」
「もういいよ」
「ほら乗れ、家で飯食わしてやる」
兄ちゃんは昨日見せてくれた新しいバイクのタンデムを指して言った。
う、ううわーーー
のーりーてー!!
…ってもうすでに俺の気持ちの半分以上持ってかれてたけど、
なんだか悔しいのと変な意地が出て
俺は目をそらして懸命に興味のないフリをした。
…けど、
うーーッッ乗りてえよ
「礼、んな顔したってしっぽ振ってんのばれてんぞー。いいから早く乗れ」
くそ~…
俺は観念してタンデムに乗った。
兄ちゃんが笑ってんのが微かに腹立つけどもういい。
新型のバイクの乗り心地はサイコーだった。
スピードも走りもなめらかで
すげー感動してる内に、あっと言う間に兄ちゃんのマンションに着いていた。
こないだ婚約者のみおさんと会った時は部屋までは上がらなかったけど、この部屋にはこれまで何度か来た事がある。
だけど、
そういえば俺だけで来るの初めてだ。
いつもここに来るときには、一緒にくにがいた。
みおさんがいるのかなと思ったけど、玄関を開けると電気もついてなくて部屋はシンとしていた。
「礼手え洗えー。あ、風呂入るか?」
「いい、腹へった」
「兄ちゃん今日はマジがんばったぜ」
そう言うと兄ちゃんが鍋ごと机にドンと置いた。
おもむろに蓋をあけるとわっと湯気が立つ。
「ビーフシチューだッ!!」
「うーまそうだろ。ほらついでやるから早く座れ」
「兄ちゃん肉!ここの肉!!」
「わーかったって」
俺はもう見ただけでテンション上がって腹一杯になるまでおかわりした。
「う~…腹一杯…」
まんぷくで倒れて動けなくなった俺の横に兄ちゃんが腰掛けた。
「礼、機嫌なおったか?」
「機嫌て、別に…。怒ってたわけじゃない」
「急に好きだって言ったからびっくりしたんだろ」
「当たり前だろ」
「かーわいいなお前」
「自分の事嫌いになりそうだったんだ」
「なんで」
「だって男ばっかに好きだって言われるから」
「いいじゃん。男でも好きだって言ってくれるなら」
「嫌だ。俺は嫌だ」
「俺でも?」
ん…?
あれ、いつの間に、両手、つかまれて、る
「え。に、…いちゃ?」
「俺でも嫌だ?」
顔、近、…??
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