第8話

トイレでチャイム鳴った。

終わった…




れえ、なんか言いに来たんだよな

れえもロミオさんに会ったのか…?


トイレを出てから遅れて教室に入るのもなんだか億劫になってしまって

俺は屋上で一時間だけふける事にした


初サボリ。

初夏に近い気候で天気も良かったから屋上はずいぶん居心地が良かった

普通授業中はこうゆうところは施錠されてるもんだろうけど、

この学校は科によって授業内容も時間もちがうので割と解放されている事が多い


それを知っている生徒もあまり多くないので

俺の他に人がいる事もそうそう無かった。


でも今日は先客が多い日みたいだ

倉庫から物音と人の気配がする。


しかも、今度はどうやら牛君じゃない。



いくらいい陽気だとは言え、それははだけすぎだろっつうぐらいジャケットもシャツも全開の生徒が倉庫の影からゆうゆうとポケットに手を突っ込んで歩いて出てきた

なんなんだあの倉庫…そうゆう場所か?


赤い柔らかそうな癖っ毛で、背はれえと同じくらいか

すれ違う瞬間目があうと、そいつは俺に愛想のよさそうな笑顔でにこりと笑いかけてから

扉をあけて急ぐ様子もなく階段を下りていった。

変な奴…


不思議に思いながらもベンチに座ってると

また倉庫から物音が聞こえた

あんまり振り向きたくなかったけど、ちらりと音の鳴った方を向くと

教師陣の中では比較的若い部類に入る木下先生と目があった


木下先生は明らかに急いで締めたよれよれのネクタイに手をかけて

眼鏡の奥から驚きの目でこちらをうかがっていた


「き、君は…戦闘科の五嶋君か」


やべ…身元割れてる…


「はい」

「じ、授業は…どうしたんだ!戦闘科は今銃器組み立てのはずだろ」

「…はあ」

「内緒にするから、先生がここにいた事も絶対に秘密だぞ!!」

「…え」


木下先生はあわててどたばた音を立てて階段を下りて行った

自分から怪しいですって言ってるようなもんだぞ

さっきの赤毛の生徒といい…

なんなんだ…一体



そんなことより、腹減った…

俺は買ってきていたパンをようやくほおばった


それから、次の授業からはちゃんと出席して、強烈な眠気でうとうとどころか熟睡の中で授業を全うしてから、放課後帰ろうとした廊下で部活に向かうれえと偶然はち合わせた。

れえ、昼はわざわざ戦闘科まで来て、俺に何か言いたかったんだよな


「よお、昼は悪かったな」

「くに」

「ん?」

「あのさ、兄ちゃんが、」



なんか言いづらそうだ、

なんかあったな、これ


「れえ、どうかしたか?」

「兄ちゃんが変だ」


??

れえが思い切ったように、でも周囲に気を使いながら言った

ロミオさんが…変…



「変て」

「…好きだって」

「は?」

「いつもみたいに冗談じゃない」


れえの後ろを勢いよく生徒が駆けていった

れえは不意をつかれてびくりと大きく身体を揺らした。

生徒が去ってその姿が見えなくなってからも

れえは終始びくびくと辺りを気にし続けている


「それで?」


俺はしばらくどう返答していいか考えて、混乱しながら周囲を気にしてるれえに尋ねた。

れえはむしろそう問われるのが予想外だったみたいに驚いた顔をした。

「え?」

「れえの気持ちは」

「俺の、気持ち…?」

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