第8話

相変わらず食べたもんが一体どこに消えてんだろうてぐらいの勢いと量だ。


まだ夕飯時よりちょっと早いからか、席は空席がちで、俺はれえの前の席にどっかり腰を下ろした。

座る直前れえは俺と目を合わすとすかさず鋭い目つきで睨みつけてからふいっと顔を背けた。


俺は我慢できず吹き出しながら、れえが必死に食ってた定食のから揚げをつまんで食った。

うま…

腹減ってたから尚更。



「おま、勝手に食うな!」

「れえん部屋何号室」

「るせえ…おまえ来んなよ」


今度は卵焼き…

「く、う、なっつってんだろアホか」



卵焼きつかんだ腕をれえにとられたけど、ぐいーって力任せに口に運んでぱくって食う。

甘辛でうまい…


ふと視線をれえから離して食堂を見渡すと、まわりにちらほらいる生徒達は大半がちらちらと、または堂々とれえを見てる。




さすが…

男子校のアイドル。

なんかおもしろくなって

れえの頭をぽんぽんしてみる。


まわりの生徒が静かに沸く。



れえのほっぺたをつまんでみる


また生徒達が静かに沸く。




おいおい



「てめ、殴られてえのかよ」


すんげー目で睨まれた。

「ちょっと、俺おまえかわいそうだよ」

「ニヤつきながら言うなっまじでむかつくから」


周りの状況なんか当然わかってないれえは要領を得ないとゆう顔で俺を睨みつけてくる。


「怒んなよ彼女くらいで」

「彼女くらいってなんだよっ俺だけのけもんかよ」

「誰にも言ってねえもん」

「もうどうでもいい」

あ、また怒った。

「なぁれえ俺ん部屋でゲームしよう」

「…何」

「新発売の格ゲー。お前がチェックしてたやつうちのクラスの海棠てやつに借りた」

「まじっ?」


れえがパッと表情を変える。

さっきの鋭くて重い空気も一気に軽くなった。

機嫌直ったな。


俺の同室の稲城はれえと同じ普通科で、

俺がれえをつれて帰ると座ってた椅子から飛び上がった。

隣のれえがうんざりあきれてるのがわかる。

稲城もあの学校の伝統に毒されてんのか

見た目普通の好青年みたいだけどな。


「な、なんで柏原」

「…お邪魔しまぁす」

「稲城お前もやる?格ゲー」

俺が借りてきたゲームを稲城に見せてる間にれえは真新しいテレビのまん前にがっつり陣取ってさっさとゲーム本体を起動させ始める。

稲城は俺の前でまだ状況が理解できないらしくあたふた、れえと俺を見比べる。

「ど、どどどうゆうこと?五嶋っ」

「…どうって…来るっつったら行くてゆうから遊びに来たの」

「…仲いいのか」

「幼なじみ」


「くにゲーム」

れえがしびれ切らしてまだ玄関近くにいた俺らを振り向いて言った。

「おお」


俺が片方のコントローラを手にとった瞬間携帯が鳴った。


【着信・高崎ゆみ】



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