第6話


「まつざかせんぱぁいっ勉強教えてほしいとこがあるから来てぇ」

「あっぼく、ぼくが先ぃ」


なんだこの会話…

話の内容の割に媚び媚びですげーピンク色なんだけど…

呆気にとられてたらまつざか先輩がそいつらの喉ねこみたいにごろごろ撫でながら、まるで赤ちゃんに対するみたいに甘えた声で言った。


「なおき~、ゆ~たん、じゅんばんだろ~。あ、あと俺勉強できないからね、さき言っとくけど」


じゃ何教えるつもりだ。


軽く呆れてたら、校門の方が急に賑やかになっている。

ふりかえってみると、そこには見覚えのある…いや、ありまくる姿があった。

「…高崎?」


黒山の人だかりの真ん中におどおどとおびえた表情で震えているのは、見慣れぬ制服を着てはいるが、中学時代クラスメイトだった高崎ゆみだ。

卒業式の時は一つに束ねていた髪を、今日は肩にそのまま流しているせいか少し大人びて見える。

高崎は俺に気付くと、そのおびえていたような表情から一変してぱっと目を輝かせた。

それでも校門から一歩足を踏み出す勇気は出なかったか、おどおどとしばらくその場で何度か足踏みする。

俺が駆け寄ると、様子を察したのか群れていた男子生徒達は少し高崎から距離をとった。


なんなんだこの感じ。おもいっきり気恥ずかしい。

俺は小声で尋ねる。


「何してんの、高崎」

「五嶋くん、ご、ごめんね」


うん。まじで

なんて、そんな事は口に出すはずもなく

ただ俯くようにして恥ずかしそうに赤面する高崎の動揺がおさまるのを待った。

「あれ、たかさき?なんで」

俺の背でれえが言った。もちろんれえも中学の時のクラスメイトである高崎の顔は覚えている。


ああ、やばい。


「…食べなくても、いいから。これ」

高崎がやっとの事で小さな声と震える手で差し出したのはあきらかにずしりと重みのある弁当箱だ。

周りからのからかいや笑い声、歓声を装ったようなヤジが怖いのか、高崎は勢いよく俺に背を向けると一目散に走り出した。

その懸命な背に男子生徒が更に追いたてるように歓声を上げた。


「くに」

「うん」


れえが呼ぶので貰った弁当を手にもったまま振り向くと、れえの表情は険しい。


「やっぱ、お前彼女出来てたのか」

「うん、つっても…まだ二週間だけな」

「なんで俺に言ってくんねえの」


れえの目がマジ怒りモードだ。

前にも、こんな事があったんだよな…


れえの後ろから心底楽しそうに松坂先輩が笑いかける。

「なになにけんかー?」

黙ってて先輩。

楽しそうなのが、ちょっと腹立つから。


「二週間とか…けっこう前じゃん」

「でも、なんでいちいちれえにそんな事言わなきゃなんねえの。別に言う必要ないでしょ」


…とか、俺

なんだこの言い方。


「なんっだお前!友達がいがねえな!!もういい、バーカ!!!」

って言ってれえはどすどす先に校舎へ入っていった。

あーあ…確かにバカか、俺


「君あんなかわいい彼女がいんだね~うらやましいな~」

俺もれえを追って校舎に向かおうとすると、松坂先輩が能天気な声で言った。

………

両手にショタ抱えて言われてもなんか真実味がない…

俺は先輩に軽く一礼してから校舎に入った。


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