第29話 映画『帆太郎伝』②
ロケ地に中島飛翔が顔を出した。三ツ池監督に挨拶を済ませると早速、舞子を見つけ、すり寄ってくる。
「舞子ちゃん、久しぶり。今日も綺麗だねえ」
「ありがとう」
舞子はつっけんどんである。
「僕がなんでここの来たのか、わかる?」
「さあ」
「舞子ちゃんに会いに来たのさ……というのは嘘で、骨折した山下さんの代役ってわけさ」
「じゃあ、
「そう」
「じゃあ、敵だわ」
「敵?」
「そうよ敵」
そういうと舞子は中島を無視して撮影に見入った。中島がいくら喋りかけても無視である。
「相変わらずだなあ」
中島はぼやいた。
★★★
小舟で相模湾に逃げ出した大斧大吉一行は大嵐にあって、漂流してしまう。それを助けたのは海賊、難破時化丸の船団であった。時化丸は“海賊の海賊”となって商船などを襲う海賊を倒し、四海の平和を守るという、仕事をしていた。その時化丸が、大吉に提案する。
薩摩国(今の鹿児島県)に『隠れ里の森』という、政治的に敗れた者どもが身を潜める場所がある。そこで、帆太郎の成長を待てば良いのではないかという話だった。大吉は承諾した。
十五年の時が過ぎる。帆太郎(三笠拓也)はたくましい若者に成長した。森に怪僧、
転機となる出来事が起きた。今上帝である
宮のことを哀れに思った帆太郎は、なんとかして宮を帝にしてさし上げたいと思った。そこで策を進言した。
「鎮西の衆に奉書を出すのです。朝廷や太宰府の年貢の取り立てが峻烈すぎて、鎮西の各国司や豪族は悲鳴をあげています。そこで讃岐宮様が
讃岐宮は最初、
「この森で皆と静かに暮らしたい」
と奉書を出すことを躊躇したが、帆太郎の情熱に負けて、筆を持つことになった。
策はあたり、鎮西各国の国司、豪族が『隠れ里の森』に集結した。そして一気に太宰府を取り返した。
★★★
舞子は千人ものエキストラを動員して撮影された、太宰府攻防戦をじっと見つめていた。しかし、舞子が注視していたのはただ一人の男だった。そう、三笠拓也が演じる帆太郎である。
★★★
太宰府陥落の報を受けた太政大臣、藤原不足は激怒していた。すぐに、藤原只今を征西軍を立てて、讃岐宮軍を討つことに決めた。だが、兵卒が足りない。そこで、摂津(今の大阪府北中部の大半と兵庫県南東部)、河内(大阪府東部)、大和(奈良県)の源氏に使いをたて、征西軍に協力するように命じた。河内源氏の棟梁、
源氏裏切る。藤原不足は、慌てて次善の策を考えた。越後、甲斐、信濃の国守、そして坂東の平氏に兵を出すように命じた。兄光明に左腕と右足を斬られ不具になってしまった武蔵守次郎水盛は弟の下野守三郎森盛を名代として出陣させた。ところが、三郎森盛は兄に似ず、とんでもない阿呆であった。
藤原只今を大将軍とする征西軍は長門の国での戦いで、帆太郎の奇策に嵌り、大惨敗した。三郎森盛は剣を抜くこともなく都に逃げ帰った。
勢いに乗った讃岐宮勢は山陽道に帆太郎軍、山陰道に源氏軍を配置し、都に向けて進軍した。そして、都での戦い。讃岐宮勢は朝廷軍を打ち破った。後黒河帝は、藤原不足に付き添われ、坂東に遷りたまわった。
讃岐宮は勝利の報を聞き、大宰府から都に入り、即位した。ただ、三種の神器のうち、草薙剣しか確保できなかったので、正式な帝として認められないという意見もあった。しかし、藤原不足の実弟で宮方についていた
坂東に下った、後黒河帝は相模国の鎌倉に新都を築いた。これを東朝と呼び、新帝(元の讃岐宮)の即位した都を西朝と呼ぶ。東西朝時代の幕開けである。
★★★
「舞子ちゃん、出番が近いわよ。支度して」
馬場正子が、食い入るように現場を見ていた舞子に声をかけた。いよいよ、映画デビューの時だ。
★★★
帆太郎は源義亘の次男、
★★★
舞子の初登場シーンは婚礼の場面であった。セリフは一切ない。だが、その美しい花嫁姿は三ツ池監督以下、撮影スタッフに強烈な印象を与えた。
★★★
坂東の武蔵守次郎水盛が動いた。不自由な体をおして征西大将軍として都を脅かすのだ。新帝は帆太郎を征夷大将軍に任じて武蔵守追討の命を下した。帆太郎はついに父の仇、次郎水盛と直接対決することとなった。
征西大将軍、武蔵守軍の進撃は早かった。次郎水盛は
本陣での軍議において、帆太郎は自らが先鋒を切ることを主張した。配下の武将たち、特に副将になった源重朝は強硬に反対した。
「古来、大将軍が先陣を切ることなどありません」
しかし、帆太郎は、
「武蔵守は我が父の仇、これだけは譲れない」
と首を縦に振らなかった。
戦は大激戦の末、帆太郎率いる西軍が勝利した。しかし、帆太郎は全身に矢傷を受け、瀕死の重傷を負ってしまう。
「ああ」
重朝は何で帆太郎のことを引きとめなかったのだろうと激しく後悔した。
★★★
舞子はこの合戦シーンを見学しなかった。館で夫の無事を祈る光姫の心境を感じたかったからだ。もちろん、台本を読んでいるから、帆太郎がどういうことになるかは承知している。けれど、光姫は知らない。だから、自分も光姫になりきって祈っていた。帆太郎の無事を。
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