case.0 旧校舎の怪

~桜間高校1年B組 4月30日放課後~


入学からひと月ほどが経ち、ほとんどの新入生たちが学校生活に慣れた頃だろう。

いくつかイツメンと呼べるようなグループもでき始め、放課後の教室や廊下は賑わいをみせていた。

次第に皆それぞれの部活に向かい静かになっていくのだが。


教室内にもあと数人という所まで人が減った頃、私は一人、ストレートで肩までのびる黒髪をモップのように広げ机の上に伏せていた。 


憂鬱すぎて全く動けずにいると、突然頭上からゆるい口調の声が聞こえた。


「やっと日直終わった~!あれ~彩音まだいたの?部活決まってないのに余裕だね~」


顔を上げ、そちらを見るとパーマがかかったクルクル茶髪の女の子が、綺麗になった黒板消しを持ちながら立っていた。


彼女は中学からの友人で名前は 佐山瑞樹さやま みずき

一言で表すなら ギャル という感じだ。


「瑞樹だってまだでしょ。あ~早めに決めとけばよかったよ」


私は昔から夏休みの宿題は始業式三日前から~という良くいる計画性の無いタイプである。この学校へ入学を決めた時も計画性は皆無だった。


いつもの調子で部活決めはそのうちとのんびり体験入部にもいかず何となく過ごしていた。


気付けばほとんどの新入生が部活に入り、すでに新たなコミュニティが出来上がってしまい、とてもじゃないが人見知りな私が入る余地は無い状況である。

まだ入部が比較的少なそうな部活をいくつかこっそりのぞいてみたが、どれも私には合わず続けることができる気がしなかった。


そんな感じで今日を迎えたわけである。

明日の放課後までに入部届を出さなければ、強面な体育系教師と嫌みなインテリ系教師が主に属す生徒指導部の恐ろしい指導と人気のない部活での地味な三年間の高校生活が待っているのだ。

正直、こうして未だに放課後を無駄に過ごそうとしている時点で半分くらいは諦めているのだが。

まぁ、一緒に指導されるであろう瑞樹となんとか同じ部に入ればいいかな。と甘いことを考えていた。


「え?ウチ?ウチは昨日サッカー部の優斗先輩に誘われてマネージャーになっちゃいました~テヘッ」


私の表情は凍りついた。


「裏切り者!ていうか、優斗先輩って誰!?いつの間に!?」


さすがギャル。なんという交友関係形成の速さだ。


「この前食堂で知り合ってね~。あと一枠空いてるからって入っちゃった!彩音は掲示板もっかい見ておいでよ!ということでウチ行かなきゃだから、バァ~イ!」


なんという冷たい友人を持ってしまったんだ私は・・・

まぁ私の自業自得。最後の足掻きに友人のアドバイスには従っておくとしよう。


~桜間高校 昇降口掲示板前 17:15~


全生徒の下駄箱兼、ロッカーがある昇降口には重要なお知らせや委員会メンバー募集、部活動紹介用と計3枚の掲示板が設置してある。


私は目的の部活動紹介の掲示板の前に立っていた。

運動部が15枚、文化部が20枚ほどだろうか。手書きだったり印刷されたものだったり様々な部活紹介の貼り紙がそこにはあった。

毎日見ているものなのでだいたい配列は覚えてしまった。

昨日までは同志である部活難民がまだ5,6人はいた掲示板前の人口は今日は私1人。これは焦る。


やっぱり諦めてお叱りと強制入部を受け入れようと出口へ向かおうとしたが、ふと1枚の貼り紙が目に入る。


それは他の綺麗に整列したものと違い掲示板の枠外に斜めった形で適当に貼られた貼り紙。


『幽霊部員募集中。      

               旧校舎1F生徒会室』


という全く飾ることなく太い文字が真っ白な紙に書かれたものだった。

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