ふと(、きみをかたるじか)ん

天海島

 

 恋人と同棲を始めて、そろそろ二年目になる。


 平日朝の彼女は正直めんどくさい。底冷えのする日なんかは朝飯の時も歯磨きの最中もくっついて離れない。会社に行かなきゃならんのに、やたらしがみついてくるのは困りものだ。うっかりしてると一緒に寝てしまって遅刻ぎりぎり、なんてこともある。

 そんな寂しがりの女の子を置き去って家を出るものだから、帰ってきた時彼女はものすごく冷たい。むくれてたりはしない。澄ました顔で、めっちゃ怒ってる。謝っても中々許してはくれない。それでも、電気を消してそっと抱きしめると、その内彼女の方からあたたかく抱き返してくれて、また朝起きる頃には寂しがりの甘えん坊がそこにいる。ちょろい。


 月曜日から金曜日までそんなことを繰り返したから、その代わり休日はずっと一緒にいることにしている。

 彼女は見かけによらずアウトドアな方で、晴れた日には朝から大体昼過ぎまで外に出て体をあっためるのが好きらしい。俺は大体スマホをいじったり音楽を聞いたりしながら、楽しそうにしてる彼女を眺めてる。

 逆に雨の日なんかは、俺も彼女もぐったりとして日がな一日身を寄せている。別に何かするわけじゃなく、互いに黙って体を預ける。腹が減っても、二人でいるせいか中々動く気にならない。


 俺と彼女は恋人なんだから、そりゃあ、なんだ、そういうこともする。

 ある冬の日。ちょっと多めにお金を出して、高いおもちゃを買った。マンネリというか、必要に迫られて。

 これがもう効果覿面だった。おもちゃのスイッチを入れたら最初、彼女は大層怒った。普段は中々見ないくらいふくれっ面でそっぽを向かれてしまった。それでも押し当ててたら、なんだかんだ彼女自身も相当乗り気になっていたらしい。本番って時にはもうこれ以上ないほど出来上がっていた。めちゃくちゃ気持ちよかった。率直に言って最高だった。どれくらい最高かっていうと、あんまり気持ち良くて、次の日の朝まで記憶が飛んでいた。

 今でも、時たまおもちゃを使う。その度に恥ずかしがって彼女は怒るけど、結局は受け入れてくれる。助平な恋人だ。


 春から夏に変わる。彼女も薄着になる。家から出ないとはいえ、下着とシャツだけみたいな格好だから、風邪を引かないか心配になる。ただまあ、くっつかれる身としても、夏場は薄着の方がいいのは確かだ。


 旅先で、彼女以外と寝てしまうこともある。というか大体寝てる。俺も男だ。盛んである。しょうがないのだ。多分、彼女はそれに気づいてる。けれど何も言わない。帰ってくると、なんかちょっとよそよそしくなったように感じる。それでも、ちゃんと家で待っていてくれるのだから、とてもありがたいことだ。それに、俺としても、誰と遊ぼうがやっぱり彼女が一番なのは変わらない。きっと彼女もそれをわかってるんじゃないかと思う。

 そういえば、彼女の方が浮気をしたことはない。断言できる。けなげに、俺だけと一緒にいる。きっと彼女が他の誰かと一晩を伴にしたら、割と俺はぶちぎれる確信がある。それでも、多分何日かすれば忘れて、俺も彼女もけろりとしているのではなかろうか。そうして二人、ずっとうまくやっていくのだろうと、なんとなく考えている。


 ああ、彼女が呼んでいる。もうこんな時間だ。今夜も二人、彼女を抱いて彼女に抱かれて朝まで眠る。

 それでは、おやすみ。

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