無題 1
暖かな日差しの中、その少年は目を覚ました。
時代にどこか異国のものなのか、それにしては見たこともないような衣装を身にまとっている。
しかし摩訶不思議な服装とは相反して何の変哲も無い少年はこの世界には浮いていた。
しばらく瞬きをする。
寝ぼけているのかと思い、自身の瞼を何度か擦った後目を皿のように丸くして叫んだ。
「えっ……なんだここ……」
だだっ広い草原の大きな木の下の木陰から少年は歩き出す。
暗がりから太陽の光を浴び、眩しさに目を細める。
風と共に舞い上がる花や草、土の香りが、彼にここが夢でないことを実感させた。
それと同時に、見覚えのないその場所に関する不安と謎が自分の中に膨れ上がって余計に混乱する。
周りを見ても人はいないようだ。
静寂のせいで小鳥の鳴き声がやけに大きく聞こえる。
そのあまりにも美しい、現実離れした光景に頭がついて行かず、思わずその場に座り込んだ。
少年は、直前まで自分が何をしていたのか思い出そうと必死に記憶を巡らせる。
しかし自分がどういった経緯でここにいるのか、不思議なことに何も思い出せなかった。
そんな彼の耳に何者かの足音が聞こえ、少年は思わず振り返った。
背の高い男だ。
褐色の肌に赤い目、そして肌とは対照的に風で靡く黒髪。
しかしそれらの特徴よりも先に少年の目に入ったのは人間とは違った特徴的な長い耳だ。
それが、その外見が、この男が人間とは別の生き物であることを象徴していた。
「……なるほど――か」
肝心の部分が聞こえなかった。
内心首をかしげる少年に、目の前の男は手を伸ばす。
自身の役目を果たすためだけに、あらかじめ設定された動作を行う機械のように無感情のまま伸ばしたその手を白く、男のものよりも小さな手が力強く握り締めた。
「――」
予想していなかった行動に思わずピタリと固まる男にかまわず、その手をとった少年は人懐っこい笑みを浮かべた。
「俺はタツミ、
じんわりと目の前の少年の体温が自身の手に広がっていくのを感じ取る。
真っ直ぐ、臆することなくその赤い目を見つめたまま「よろしくな!」と再び、少年は笑った。
――繋いだ手から流れてくる体温。体温とは別の温かい何か。
今思えばこの出会いが、タツミと名乗った
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