緊急依頼『奴隷狩り』

20 名無しのお呼び出し


学校で先生に呼び出されたりすると「あれ、もしかして私ヤバイことしたかもしれない」とか自分に思い当たる節がなくても思ってしまう人間だった。

実際はプリントを配布しておいてくれとか、みんなの課題を集めておいてくれだとかそういう委員会とかの仕事を任されるだけだったりするのだが。


なぜ私がそんなことを考えているのかというと、今現在進行系でそんな感じのことが起きているからだ。


受付嬢であり私の心のアイドルでもあるマリンちゃん。

昨夜からこの世界に関することを柄にもなく勉強していた私は当然寝不足。

シャーレイに起こしてもらい、引き摺られながらギルドにやってきた私はこちらに駆け寄ってきたマリンちゃんの姿を見てすっきり目が覚めた。

……そこまでは良かったのだが、マリンちゃんの発した一言が問題だった。


「ギルドマスターがお呼びでしたよ」


詰んだわ。

別に『何が』とかじゃないんだけど、私の頭には何故かその言葉が浮かんできた。


「あの、大丈夫ですか?」

「……うん、大丈夫! どこに行けばいいかな?」

「え、でもなんだか顔色が悪いような――」

「大丈夫! オールオッケーで絶好調だから!」


こちらの顔を心配そうに覗き込む彼女だったが私が行った言葉に安心したのか、「無理しないでくださいね」と困ったように笑うと場所を教えてくれた。


「二階にギルドマスターの部屋があります」


あそこです、と指差す先。

このギルドの二階はいわゆる資料室になっていて、魔物の本などが置いてあり、一度スライム討伐の時に利用したことがあった。

頑丈そうな両開きの扉がついた部屋があり、そこがギルドマスターの部屋なのだそうだ。

有り体に言ってしまうと『社長室』だね。 行きたくない。


しかし、呼び出された手前すっぽかす訳にもいかない。

こう言う時変に真面目な自分の性格が嫌になる。

マリンちゃんにお礼を言い、二階に向かう。

『呼び出し=怒られる』的な考えがどうしてもあるので、このギルドに来てからの自分の行動を思い出す。


……

………

…………よし、多分大丈夫。 怒られるようなことはしていない。


扉の前に着き深呼吸。

これから何が起こるにしても冷静に対応する、そして万が一この二人にとって不利なことが起きそうになったらダッシュで逃げよう。

以上の二つを頭に入れ、覚悟を決めてドアノブに手をかける。

しかし、私が開けるよりも先に扉は開いた。

視線を上げるとそこには明るいオレンジ色の髪をし、頭に包帯を巻き獣の耳を生やした女性が立っていた。

彼女は私を見るとニィッと鋭い歯を見せて笑う。


「待ってたよぉ! さぁ、入って入って!」


促されるまま「失礼します」と言って部屋に入る。

まず入ってすぐ正面の机には昨日見た死神ギルドマスターが座っていた。

そしてその向かいに何故か例の三人組が立っており、その横には私の知らない人達がいた。

大柄の男、本来ならば大剣などの武器を振り回していたであろうその腕は骨折でもしたかのように包帯で固定されており、その二人の横に、先ほどの獣人女性が並び立つ。

二人ともよく見れば体のあちこちに怪我をしている。

何故呼ばれたのか、そもそもこの面子はなんなのか、これから何が始まるのか。

わからないことだらけで混乱する私の耳に聞き慣れた声が入ったきた。


「ギルドマスター、なんでコイツ呼んだんだよ。どう考えても戦力外だろうが」


ギルドマスターの前だからか、いつもよりも怒りを含んでいない声でバランが言ったことに私も激しく内心頷く。

今回に限ってはナイスアシストと言わざるおえない、ってか私も知りたい。


「それは俺が説明しよう」


怪我をした大柄の男性がこちらに歩いてきた。


「初めまして、レーヴェだ。彼女はパーティメンバーのミニーニャ。」

「やっほー! ミニーニャだよ!」


私の手を握りウインクをするミニーニャさん。

チラリと見えた尻尾や外見からして恐らく猫の獣人のようだ。

彼女は私の後ろに視線をやるなり感嘆の声をあげ、すぐにそちらに走り寄る。


「うっわー見て見てレーヴェ、エルフだよ! あたし本物初めて見た。 隣の彼も真っ白だねー、うん、珍しい! しかも結構イケメンじゃん……お姉さんとちょっと遊ばない?」

「ミニーニャ、やめないか」


ハイテンションでシャーレイとノラに詰め寄り二人の周りをぐるぐると回って観察し、ノラをナンパし出したところでレーヴェさんが呆れながら止めに入った。

「いつものことなんだ、すまない」と謝罪される。

組織のリーダーが大変なのはどこでも同じようだ、お疲れ様です。


「それで、私が呼ばれた理由というのは?」


私の質問にレーヴェさんの顔が一変し険しいものになり、ミニーニャさんもさっきまでふざけていたのが嘘のように真剣な表情になる。


「キミは『奴隷狩りどれいがり』を知っているだろうか」





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