21 名無しの選択


「奴隷、狩り?」


聞いたことがない言葉に首を横に振る。

奴隷を狩る? 


「最近、近隣の町や村で人の奴隷を奪う事件が多発しているんだ。」

「元々はシルバーランクの依頼だったんだけど……」


そこまで言ってミニーニャさんは自身の体を見て「このざまだよ」と苦笑いし、レーヴェさんも悔しそうに唇を曲げた。


「つまり、誘拐事件ってことですか?」

「うーん、『洗脳して連れ去る』っていうのが近いかも」


なるほど、つまり普通の誘拐のように力づくで連れていくのではなく、奴隷を操って自分の支配下に置いてから連れ去っている訳か。

普通の誘拐以上にタチが悪い。

あ、そういえばハーメルンの笛吹き男なんてお話があったのを思い出した。


「犯人は人を洗脳する魔法を使っているってことですか?」

「洗脳魔法なんて聞いたことないけど、もし存在するなら間違いなく禁忌レベルの魔法だね」


禁忌魔法。

ちょうど昨日勉強したところが出てきた。

「あ、これゼミでやったやつだ!」みたいな状況をまさか自分が体験するとは思わなかったけど。

『禁忌魔法』というのは文字通り禁忌、つまり使ってはいけない魔法のことだ。

使ったら即刻指名手配デッドオアアライブになるらしい、怖いね。

……うん、ひとまず事件の概要は理解した。

洗脳魔法を使う奴隷狩りをどうにかして捕縛しなくてはいけないということか。


「そこでキミを呼んだ理由だが、今回のギルドクエストに参加するかどうか聞いておこうかと思ってね」

「参加するかどうかって、ギルドクエストって強制参加じゃないんですか?」

「基本はそうだが、キミはまだ冒険者になって日が浅いだろう? だからギルドマスターが今回は自分で選んでいいとおっしゃっている」

「それにナナシちゃんは奴隷を連れているでしょ? 万が一ってこともあるし」

「キミが参加するか否かで、部隊の配置も変わってくる」


今回の奴隷狩りで私の奴隷が狩られるかもしれない、そして私がまだまだ新米冒険者なことを考慮してこう言ってくれているのだろう。

しかし、選んでいいということは暗に『戦力としてはいてもいなくても変わらない』と言われているようなものだ。

特に嫌な気持ちではない、戦力外なのは自分でもよくわかっている。

私はシャーレイとノラを振り返った。


「……どうする?」


今回の件に関しては奴隷である二人の方が身の危険は多いだろうから、その二人が行かないというのなら私はそれでも構わなかった。

勿論、逆もまた然り。


「ナナシが決めてくれ。私はそれに従う」

「決めて」


なんだか前もこんなやり取りをした気がするなぁと思わず口角が上がってにやけてしまった。

この二人は私に選べと言う。

選択の自由を、選択する権利を全て私に委ねて、それでもいいと言ってくれるのだ。

自身が洗脳されて酷い目にあうかもしれない、死ぬかもしれないとわかっていて行っても行かなくても結果に大差はなく自分の身を危険に晒すだけだと分かっていても。

奴隷という立場だからということもあるのかもしれないが、私はそれがどうしようもなく嬉しい。

どんな道を選んでも、この二人は付いてきてくれるということだ。

首輪に縛られていて選択の自由がない二人には大変申し訳なく思うが……どの道を選んでも独りじゃないということが私に選択する勇気をくれる。

私は二人を見て頷き、ギルドマスターの方を向く。

それから深呼吸して、普段よりも少し大きな声で宣言した。


「参加します、参加させてください」



あー、それでもやっぱり、人前は緊張する。







△▼△▼△▼△▼△▼△▼







今回のギルドクエストの作戦はいたってシンプル。

ズバリ『待ち伏せ作戦』である。

この近辺でまだ被害にあっていない、被害に遭う可能性が高い、いくつかの村・町に部隊を配置する。

部隊は戦力が均等になるように配置されるらしい。

一応明日の昼までにはそれぞれの担当する場所に到着している必要があるが、担当場所によって出発時間が異なってくる。

因みに私の出発は明日の朝。

今日の夜出発する人達もいるらしいが、私はラッキーなことにゆっくり準備する時間ができた。

実は、私が村を出るときにもらったマナタイトはスライム討伐の時にかなりの量を使ってしまっており、そろそろ補充しなくてはいけないと思っていたのだ。


ギルドを出て早速準備だ、買い出しに行こうと二、三歩歩き出してすぐに足が止まる。

……考えてみればマナタイトってどこで手に入れるんだ?

村にいた頃はサーシャや子供達は川で拾って来たみたいなことを言っていた気がする。

川の場所なんて知らないし、これから拾いに行くのはちょっと難しいんじゃないだろうか。

あと単純に面倒臭い。

仮に川に行ったとしてもこれから先、マナタイト補充の度に川に行って拾わなくてはいけないのかと考えると効率が悪い気がする。

この町にはガラクタ屋とかないのだろうか。


「何してるの?」


後ろから声をかけられ、振り向くとそこには先ほどまで同じ部屋にいたあの三人組のヒーラー担当キャロルがいた。

ゲームキャラとかでしか見たことがない露出度の高い服装は同性の私でも目のやり場に困る。

黙っている私に彼女は「バランはここへは来ないわ」と言った。

私が何も言わないのはバランが来ることを危惧しているからだと思ったようだ。


「気を使わせてすみません。実はマナタイトを探していて」

「あぁ、あなたの武器なのよね」


そして彼女は私の横を通り過ぎると「ついて来て」と言って歩き出した。


――え、何それかっこいい。


クールビューティー!!

思わず胸がキュンとするような、大人の女性のかっこよさ!!

すごい仕事のできる先輩オーラが漂っている。

私が感激している間にもキャロルはどんどん先へと歩いて行ってしまう。

ノラに顔を覗き込まれたことでハッとし、走ってその後ろ姿を追いかけた。

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