12 名無しは黒い手を見る
お風呂から上がり、部屋に戻るとシャーレイも起きていたので服を買いに行く前に身を清めてはどうかとお風呂に入ることを勧めると少し戸惑いながらも一階に降りて行った。
もしかしてエルフ族にはお風呂という習慣がないのかと思ったがどうやら違ったようで彼女が戻ってきてから聞いてみると奴隷になってからまさか湯船に入れるとは思っていなかったようだ。
やはりエルフといっても女性なのでお風呂に入れるというのはとても嬉しかったのだろう。
そして肝心の彼、ノラは昨日は気にしなかったがあの奴隷商にいる時間が長かったのかとても汚れていた。
一応彼にも風呂に入るように言う。
シャーレイが風呂という文化を知らず一人で風呂に入れないようなら一緒に入ることも可能だが彼は男性なのでさすがにどうしようもない。
しかし、そんな心配の必要なかったようで彼は無言でのそのそと部屋を出て行き、数分してから何事もなく戻ってきた。
それからそのまま私はシャーレイとノラの服と装備を買いに街に出た。
服は特に問題なかった。
私が選ぶ訳にもいかないので二人に店に入って自分達で何着か選んでもらった。
この服屋は私の行きつけで安くて動きやすく種類が豊富なのだ。
二人がどんな服を選ぶのか少しドキドキしながら待つ。
恋人同士で彼女が買い物をしている間に外で待っている彼氏ってこんな気持ちなのかなぁと余計なことを考えていると二人とも服を選んだようなのでお会計をしてからその店で着替えてもらった。
シャーレイはエルフなのでなんとなく予想していた通りの格好だった。
緑色の服に茶色いぴったりとしたズボンとブーツ。
まさにファンタジーで幾度となく見てきたエルフの定番服に感動しているとどこか変だと思ったのか「な、何かおかしなところがあるだろうか?」と聞いてきたので「いやいや、よく似合ってるよグッジョブ」と言って親指を立てておいた。
ノラの方はというと白い長袖に白い長ズボン、靴は何故か本人がいらないと言うのだが、怪我をするかもしれないので念のため一足だけ買って履いてもらった。
彼が選んだのは奴隷が着用する服の新品、つまりノラが元から着ていた服の新品の物で、本当にいいのかと聞いたがノラがこれでいいと言うのだから無理強いするのも良くないと思いひとまず服屋を後にして、武器や防具の店に来た。
シャーレイはエルフだからか弓と小さいナイフを二本と
「あれ、防具は?」
「動きにくくなるので必要ない。私は基本遠距離からの狙撃が仕事だからな」
なるほど、弓を得意とする彼女はさしずめ
「じゃあノラは……そもそも戦えるの?」
一番忘れてはいけないことを聴き忘れるところだった。危ない。
オマケのような形で引き取ってしまった彼だが、果たして彼は戦えるのか?
勿論、戦えないから捨てるといったことはしないが戦えない人物を魔物と無理やり戦わせる気もない。
外見的に正直戦えるようには見えないのだがノラは「戦える」と答えた。
しかしここで問題発生。
それを聞いたシャーレイが「じゃあお前も早く武器を選べ」と言うとまた短く一言「要らない」と言って首を横に振る。
「……え?」
「要らないって……魔法を使うにしても杖は持っておいた方がいいぞ」
「違う、魔法は使えない」
てっきり魔法を使うのかと思ったけどどうやら違うらしい。
使えないって言ったよな、使わないじゃなくて使えない。
それってこの世界じゃかなり珍しいことなんじゃないだろうか?
勿論、悪い意味でだ。
魔法を使えない人間がどんな評価を受けるのかは私が身をもって体験している。
ますます訳がわからないといった顔をするシャーレイと私にノラはスッと右手を差し出すように向けてくる。
不思議に思いながらもその手を覗き込んだ次の瞬間――
――黒く変色し、鋭利な爪の生えた手がそこにはあった。
思わず私が身を引く、シャーレイも「な、なんだこれは!?」と言ってかなり驚いている様子だった。
そんな私達に普段通り変わらず淡々とした口調で「これがあるから」と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます