9 名無しはパーティに入らない



「単刀直入に言う。うちのパーティに入らないか?」


今日の分の依頼を終わらせてギルド内の酒場のカウンターで休んでいると声をかけられ隣に座られる。誰こいつ。

横を見ると鎧を身に纏った茶髪の青年だった。

私に声をかけたのはこの青年、そして多分パーティのリーダー。

その後ろに二人の男女が立っていた。

一人は胸を強調した露出度の高い服の上にマントを羽織って杖を持った女、杖を持っているところを見るに魔法使いか……スカート短くない? 大丈夫?

もう一人は返事をしない私にイラついたのか「チッ、おい聞いてんのか」と舌打ちをしてきた、くすんだ青い髪をした目つきの悪い長身の男。不良っぽいなぁできればあまり関わりたくない、何か理由をつけて殴られそうだと余計なことを考えていると舌打ちをした彼をリーダー格の青年が諌める。


それにしてもどうして彼は私をパーティに入れようと思ったんだろう。

スライム討伐からしばらく経つが、あれ以来私は魔物討伐系の依頼を受けていない。

理由は簡単、怖いから。あのスライムに関しては本当に運が良かったのだ。

だからなんとか倒すことができたが、ゴブリンやオークのような知性がある魔物を相手にするには私はいささか勇気が足りない。

そのせいで今日まで『お使い』『薬草積み』『雑草抜き』といった雑用同然の仕事をしてきた。

結果、私にはこれといった実績が無く、この町に来てしばらく経つがギルドカードは銅色のまま。

そんな私をなぜ? 気になったので聞いてみる。


「どうして私をパーティに誘おうと思ったんですか?」

「今うちのパーティには魔法使いが回復魔法専門の彼女、キャロルしかいないんだ」

「そうなんですか」

「このままでは少し火力不足だから強い魔法使いをパーティに入れようってことになって――」


……んん? 

そこまで聞いてちょっとおかしいなと。彼らは勘違いをしているのだ。

「私、魔法使えませんよ」と言うと彼はしばしキョトンとしてから困り顔で、「そんなにうちのパーティには入りたくないのか?」といってきた。

違う、そうじゃない。

本当に魔法が使えないのだと言うと目つきの悪い男が私を睨みつけてきてそのまま私の目の前までくると胸ぐらを掴もうとしてくる。それを慌ててリーダー青年が止めに入る。

「テメェホラ吹いてんじゃねぇよ!嫌なら嫌って言えばいいだろうが!」と怒鳴られたので声が震えそうになるのをなんとか抑えて「本当に使えないんです」と言えば今まで傍観に徹していた先ほど名前の上がった魔法使いの彼女、キャロルが口を開いた。


「じゃあ、貴方の武器は何?」


その一言で私の言葉が詰まった。私は剣も槍も装備していない、装備も軽装なので消去法で普通は魔法使いだろうと言うことになるが私は魔法を使えない。

私の主要武器はマナタイトだ。しかしこれは普通受け入れてもらえないだろう。

村にいた頃はサーシャも子供達も村のみんなも受け入れてくれた、すごいと言ってくれていたのでとして受け入れていたがではないこの能力が現状アダとなっているのだ。

考えてみれば魔法を使えないと言うのはこの世界では間違いなく


黙り込んだ私を鼻で笑って「なんだよ、やっぱり嘘ついてたんじゃねぇか」という目つきの悪い青年に腹が立ってカバンの中からあの日以来出番の無くなった私の武器、マナタイトを手のひらに乗せて男に突き出し「これが私の武器です!」と言うと男は石を見て黙り込む。

それから先ほどよりもドスの効いた低い声で「……お前ふざけてんのか」と言われたので正直に「ふざけてません」と言うと彼は俯く。


――そして大声で


「おま、お前そりゃねぇよ!! くくくっなんだそれ傑作だ!!」

「おいバラン……」

「だってよぉアル、これマナタイトだぜ!」


目つきの悪い男『バラン』の声はよく響き、他のギルド内にいた人達も何だ何だとチラチラこちらを見ている。見世物じゃない。

リーダー青年『アル』が止めに入ろうとしてくれるがバランは私の手の中にあったマナタイトを手に取ると更にゲラゲラと笑い出した。


「スライムを大量に倒したって聞いたからどんな奴かと思えば、まさかこんなオモチャを武器にするような奴だったとはな!! 笑いすぎて死にそうだ! 一体何日かけて倒したんだよ!?」

「もうやめろバラン! ……仲間が失礼なことをした、すまない」


バランの代わりに私に謝罪をしたアルはそのままバランを無理やり引っ張ってその場を後にする。キャロルはしばらく私をじっと見ていたが何も言わずに彼らの後を追いかけて行った。


「……はぁ」


大きく息を吸って吐き出しながらカウンター席にうなだれる。

後ろではヒソヒソと何かを話す声が意識しないようにしても聞こえてくる。

チクショー、今日はこのまま宿に戻ってふて寝しようか……と考えていると目の前にグラスが置かれた。

注文していないのにと不思議に思って顔を上げる、こちらを見て微笑むウェイターの姿を見て安堵してか涙腺が緩む。


「エクレア〜」

「ほーら、そんな暗い顔しないでよ。これ飲んで元気出しなさい」


彼女はこのギルド内にある酒場で働くウェイターの一人、エクレア。

私が初めてここで食事をした時に気が合い仲良くなった、この異世界での初めての友人である。

度胸があり明るく勝気な性格の彼女は私の精神的な支えにもなっている。

グラスの中身は私の好きな果実酒だった。まだ日は沈んでないけど今日ぐらいはいいよね。

お礼を言ってお酒を飲む私を見てからエクレアは眉間に皺を寄せて「それにしても何よあいつ偉そうに」と彼らが出て行ったギルドの扉の方を睨みつける。

美人の怒り顔は迫力がすごい。

エクレアは彼らのことを知っているのかと聞くと不機嫌そうに「知ってるわよ」と言って説明してくれた。


彼らはこのギルドでも結構腕利きのパーティで全員『銀色シルバー』になったばかりだが実力的に現在、銀色以上の人間がいないこの町でもしかしたらこ最初の金色ゴールドになるんじゃないかと噂されているそうだ。

全然知らなかった、そんな人達に勧誘されていたのか。


「ナナシはまだ銅色カッパーなのよね?」

「……そうだよ」


果実酒を飲んでいたら気持ちが穏やかになってきた。

しかしまだ飲み足りないのでエクレアにお代わりとおつまみを頼むと開いたグラスを持って奥に引っ込んで行った。

あの男バロンとかいう不良野郎に言われっぱなしというのも気に食わないが彼奴あいつに向かってマナタイトをぶん投げるのは得策ではない。


そういうやり方ではダメなのだ。


こうなったら銀色に上がって一泡吹かせてやりたいけど、私一人じゃゴブリンやオークといった魔物には勝てないだろう。

彼らは群れで行動する魔物なので最低でも三人以上でパーティを組む必要がある。

もっとも腕の立つ人物であれば一人でも倒せてしまうらしいが……それはそれ。

どうしようか、特に良くもない頭をフル回転させて考えるが何も思いつかない。

エクレアが果実酒のお代わりと豆のスナックを持ってきてくれたので彼女の知恵も借りることにした。


「エクレア、パーティを組まずにゴブリンを倒すにはどうしたらいい?」


私のその発言を聞いてからエクレアはため息をついた。


「あんたねー、何いってんの」

「だってパーティ組みたくないです、組めないです」


さっきの光景を見ていたエクレアは「まぁそう思うのもわかるけど」と言ってからお盆を脇に抱えて考え始める。

それからパッと顔を上げたので何か思いついたのかと期待していると彼女は人差し指を立てて名案とでもいうふうに私にある提案をしてきた。


「ナナシ、を買いなさい!」






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