8 名無しは石をばらまく


名称:グリーンスライム

知る人ぞ知る『初心者向け魔物モンスター』の代表格。

グリーンスライムの他にもレッド・ブルー・イエローなど様々な種類のものが存在するが『パープルスライム』以外は毒を持っておらず、攻撃手段も顔にひっつくことで窒息させる程度のことしかできない。

知能も低く、動きも遅い。

ただし液体に近いゼリー状の体なので物理攻撃がほとんど意味をなさず、火の魔法で燃やすのが最も有効な手段だと言われている。

しかし氷魔法で凍らせてから物理攻撃で砕くといった手法も有効。

稀に大量発生することもあるが未だ原因は解明されていない。


以上が『魔物図鑑シリーズ:スライム編』に記載されていた情報である。


この本ということは他にもモンスター別に本が出版されているということか。

スライムだけで本一冊描くとか……この世界にはとんでもないスライムマニアがいるようだ、どの世界にもオタクは健在ということだろうなぁと思いながら必要な部分は読んだが、他にはどんなことが記載されているのか気になって興味本位で目次を見てみる。

――なんだ後半の『旬のスライム大特集』って。

旬ってなんだよ。食うのか。スライムをか。

なんだか狂気に近いスライムへの愛情を抱えていそうな作者だと思ったが本を棚に戻して私はギルドを後にした。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼




やってきたのは町からそう離れていない歩いて十分ほどの場所にある川の近く。

図鑑にあった通りの特徴の魔物、グリーンスライムが確かにいた。

私はその光景を見て口元は引きつった。

目の前にはボヨボヨと跳ねて動き回るグリーンスライム。

そこまではいいのだが、なんだか想像していたよりも数が多いのだ。

てっきり一匹だと思っていたのでなんだよ楽勝じゃーんとか高を括っていた私は唖然とする。

何々、団体様ご到着? これ何匹いるの?

大雑把に見ても百匹はいるんじゃないだろうか。 

これ一人だとキツイかもしれないと思いつつも私はすぐに取り出せるようにポケットの中に入れておいたマナタイトを握って魔力を流す。

攻撃力は無くても窒息死させてくるらしいので一定の距離をとる。

多分この距離なら届くだろう、とりあえず様子見として振りかぶってスライムの集団に投げる。


爆発に巻き込まれないように近くの大きな岩に隠れるとほぼ同時に大爆発が起きる。

岩に隠れたまま顔を出して見てみると爆発したであろう場所から水蒸気のような白い煙が上がっていた。

なるほど、火の魔法が有効と図鑑にあったのでマナタイトの爆発でもいけると思ったのだがどうやら正解だったみたいだ。

よしよし順調だな、このままこれを何度か繰り返せばあのスライム集団が全滅するのも時間の問題だろう。

幸い知能が低いのかこちらに気づいた様子はない。心なしかザワザワと慌てているような雰囲気は伝わってきた。

そして魔力を込めてからマナタイトを大きく振りかぶる。





投げては隠れる、投げては隠れるを無我夢中で繰り返す。スライムの中には私の存在に気がついて襲ってくるスライムもいたが思ったよりも移動速度が遅かったので走って距離をとってからまた投げる。

あまり運動が得意ではない私は魔力を込めるのより石を投げる・走るといった単純な運動の方が疲れた。

スライム討伐開始から数時間。

私はすっかりスライムがいなくなったことを確認してからその場に横になった。

風が心地よい。草の香りと一緒に焦げ臭い匂いも運ばれて来たが原因はわかりきっているので気にしないことにした。

眩しさに目を細める、ちょうど太陽が真上に来ていてお昼ということがわかるとお腹が空い音を立てて鳴いた。

ギルドに戻ってお昼にしよう、実はあのギルドの酒場を一度利用してみたかったのだ。

そう考えると人間という生き物は単純なもので、不思議と元気が出て来た。

さぁ帰ろう、ご飯だご飯!

……そういえば今回の報酬はいくらになるのだろうか? 

その辺しっかり聞いておけばよかった。



ギルドにたどり着いてから私は我らがアイドル受付マリンちゃんのところに向かう。


「あ、ナナシ様! お帰りなさい!」

「ただいまです」

「討伐はどうでしたか? お怪我などされていませんか?」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうマリンちゃん」

「とんでもないです、それではギルドカードを拝見しますね」


そういえばギルドカードに倒した魔物の情報が載るんだっけ。

言われた通りギルドカードを提示すると彼女は目を見開いた。


「す、すごいですナナシ様! スライムを百五十三匹も倒されていますよ!!」

「ひゃ、百五十三!?」


百よりも全然多かった!! そんなにいたのかスライム!!

そりゃ時間もかかるわけだわな、とあの場にいた今は亡きスライム達の姿を思い返す。

ギルドカードをもう一度確認してから彼女はどこからか箱を取り出し、中に入っていたスタンプを押した。

『完了』という文字が光り輝いてカードの上に浮かび上がってから消えた。

このギルドカード実は結構すごい魔法道具とかなのかもしれない。


「それでは報酬ですが……二万リベルです」と笑顔で言われてその場でお金の入った袋を渡される。

二万ってかなりの額なんじゃないだろうか。

袋を受け取ると彼女は私を見てクスクスと笑う。


「え、変な顔してました?」

「いいえ、あんまりに嬉しそうな表情をされていましたので」

「あははー……あ、あのさマリンちゃん」

「はい?」

「酒場のメニューで何かオススメとかある?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る