5 私は旅立つ


この村を出ていくための移動手段を入手した私はその次の日、村長に頼んで村のみんなを集めてもらい、この村を出ていくことを話した。

サーシャは悲鳴を上げてから出会った時と同じように泣き出してしまい、他のみんなも悲しそうな顔をして口々に「どうして村を出て行ってしまうのか」「どうしても行くのか」と詰め寄られどうしようかと思っていたが……


「ナナシが自分で決めたことだ、誰にもそれを止めることはできない」


……との村長の一言でみんなは納得してくれた、と言うのもおかしい気がするが「自分で決めたならしょうがない」「笑って送り出しましょう」と言ってくれてこの村に来て本当に良かったなと改めて思った。

記憶は戻らなくてもいいとレボルトさんには言ったが、本当に記憶が無くなっていても同じことを言うに違いない。

それだけ、私はこの村での生活に幸せを感じていた。

そして普段は娘のサーシャと同じで涙腺が緩く、どこか頼りないところがあるが、やはりこの村の村長はベフットさんしかいないなと見直した。

サーシャも「ゔん、そうよね……自分でぎめだんだもの、グスッ」とボロボロ泣きながら私を抱きしめた。

その日の夜はみんなで私の見送りと称してみんなでお酒を飲んだり、普段よりも少し豪華なご飯を食べたりして大いに騒いだ。


そして今日、私はこの村を旅立つ。






私に持ち物と呼べるものはなかったが、村の人が無いと困るだろうと言って斜めがけの大きめなカバンをくれた。

中にはサーシャがこの日のために作ってくれた好物のサンドイッチとマフィン、それからこの世界でのお金が袋に入っていた。

話を聞くと、村の人達全員でお金を出し合ってくれたらしい、計算すると結構な額が入っていた。

さすがに申し訳がないので返そうと思ったら「今までの駄賃だと思って受け取ってくれ」と言うし、レボルトさんも「無一文は困るだろ、ありがたく貰っとけよ」と言うのでお礼を言って渋々受け取る……が、心の中で絶対いつか返そうと決めた。

そして子供達が私のところに来て別れの言葉を言いながら、その中の一人。

私を森で見つけてくれた少女、マリーが「これ、危なくなったら使ってね」と言って私に瓶を渡して来た。

受け取ると中身は……マナタイトだった。

一瞬たじろぐが、旅に危険はつきものだし自衛手段はあったほうがいい。

何より、子供達がみんなで集めてくれたと言うのでお礼を言ってから子供達を全員抱きしめる。

何人かは泣き出してしまったが、このままここにいてももっと別れづらくなると思って私はレボルトさんの馬車に乗り込んだ。


「本当にお世話になりました――行って来ます!」



こうして私は村を出た。

馬車に揺られながら考える。

いつかまた、ここに戻って来たら本当のことを話そうと。

この村で嘘をつき続けるのが辛くなって私は逃げてしまった部分も正直あるが、それでも旅の最後……戻れるかは分からないが元の世界に帰るまでには、嫌われても本当のことを話そう、もう嘘をつかなくてもいいぐらい強くなろうと決意した。

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