4 私と移動手段


あの『マナタイト大爆発』事件の後、村の大人たちが魔物でも襲ってきたのかと各々武器を手に駆けつけてくれたがサーシャが理由を話すと安心したようで無事でよかったと言われた。


私は想定外の出来事だったとはいえ、子供達を危ない目に合わせてしまったことには変わりないので子供達の親御さんには頭を下げて謝った。

「怪我も無いし気にしなくていい」と言ってくれたが、責任を感じずにはいられなかった。


それにしても、魔法は使えないのにあのマナタイトの威力は何だったのか……という話になるのだが。

マナタイトをあそこまで大爆発させるのは魔力云々の前に無理なのだそうだ。

私が使ったのは街ではタダ同然の値段で売られている純度の低いもので、サーシャが子供達と一緒に川で拾ったもの。

そういった純度の低いマナタイトでは限界まで魔力を込めても爆発の規模はたかが知れていて、丁度サーシャがやったアレぐらいの威力らしい。

逆に、純度の高い物は宝石のように輝き高値で取引をされていて魔力を沢山込めることもできる。

その代わりに爆発させるとなると膨大な魔力が必要になるので並の魔力じゃ無理、仮に出来てもぶっ倒れる……らしい。


では何故私は純度の低いものであれほどの爆発を起こせたのか。

結論、わかりません!!

ただ仮説としてサーシャが言うには恐らく今回の件は『量』ではなく『質』が関係しているのではないかと言っていた。


つまり私は『魔法は全く使えないけど魔力量が無尽蔵で質もなんかすごい』と言う何ともいえない体質と言うことになった。

微妙に宝の持ち腐れな気がするが「まぁ、危ない目にあったらマナタイトを投げれば大丈夫ってこと」と、みんなに励まされた。



そして『マナタイト大爆発事件』からさらに一月後――





△▼△▼△▼△▼△▼△▼




「……馬車?」


ドニ先生の手伝いで薬草積みから帰ってくると村に見知らぬ馬車が来ていた。


「ナナシは初めてか? 近くの町から月に一度、物資の配達を頼んどるんじゃよ」


薬草を受け取りながら先生は言う。

馬車から男性が降りて来て、集まって来た村の人々に商品を渡しているのが見えた。

あまり実感したことはないが、この辺りは結構田舎だと言う話は何度か聞いたことがある。

ここでの生活も慣れてしまい、スマホやゲームの代わりにいつのまにか読書が趣味に変わってしまっていたので人間『住めば都』と言うことだろうか。

何となく見ていると、商人の男性が私に気がついたので慌てて目をそらす……が、何と相手はこっちに近づいて来た。


「よー! ドニ先生じゃねぇか、元気してたか?」


ホッとした。どうやらこの商人さんはドニ先生の知り合いだったようだ。

村に配達してるぐらいだし、知ってて当然か。

商人さんは体格が良く、力仕事だからだろうか、肌は小麦色に焼けて全体的にがっしりとしていた。

人見知りな私は緊張してしまい、二人が話している間にこっそり逃げようと思っていると「で、こっちの嬢ちゃんは誰だぁ?」と言って肩をガシッと掴まれてそのまま商人さんと向き合う形になる。

やめて! 見逃して! そのままドニ先生と話しててください!


私が言葉に詰まっているとドニ先生が商人さんの腕を叩いた。


「これやめんかレボルト、この子は記憶喪失なんじゃよ。今は村の空き家に住んどるんじゃ」

「そうだったのか、記憶喪失たぁ大変だな。俺はレボルトだ」

「あ、どうも……ナナシです」


手を差し出されたので握るとものすごい力でブンブンと手を上下されて、ガクガクと体も同時に動いてしまう。

それを見てレボルトさんは愉快そうに大笑いをし、ドニ先生はため息をついてそのまま家の中に戻って行った。

そんな! 置いていくんですか先生! 私も一緒に!


「で? 記憶は少し位戻ったのか?」

「いえ、それが全然……」


……実際、記憶喪失でも何でもないし。戻るも何もないのだけれど。

改めて私は村のみんなに嘘をついていると言うことを思い出し、後ろめたくなってしまった。

このままこの村で嘘をつき続けることになると考えると……あぁ、無理だ。

嘘はつき続けるのは大変だと誰かが言っていた、良心が痛む。

――良心とかどのツラ下げて言ってんだろう、私は。

自然と俯いてしまった私を元気づけようとしてか、レボルトさんは私の背中をバシバシと叩く。

思わず咳き込むととニカッっと笑って「まぁ、旅でもすりゃなんか思い出すんじゃねぇか? あんた外から来たんだろ?」と言った。

その何気ない一言で私は思い出した。

あの野原で考えていたこと。

せっかく異世界に来たのに、何もせずに過ごすのなんて勿体無いと言う贅沢な考えだった。

しかし、私がこの世界をもっと自分で見て回りたいと思うのは本当のことだ。


「――あの、レボルトさん」

「何だ?」

「私を、近くの街まで乗せて行ってもらえませんか」


気がついたらこんなことを言ってしまっていた。

初対面の商人相手に自分は一体何を言っているのかと自分でも思ったが意外なことにレボルトさんは「いいぞ」と短く一言で答えた。

てっきり断られると思っていたので逆にこちらが驚いてしまった。


「い、いいんですか?」

「なんでお前が驚いてんだよ、俺は別にいいぜ?」


「ただなぁ」と言って前置きをするとレボルトさんは馬車のところまで行き、小さな袋を持ってこちらまで戻って来た。

そして袋から取り出したものを私に一つ投げてよこす。

慌ててキャッチするとそれは赤いつやつやとした果物、リンゴだった。

レボルトさんをちらりと見るとそのままかぶり付いている。


「俺が言い出したことだけどよ、なんでこの村を出ようと思ったんだ? ここでの暮らしに不満があるようには見えねぇし、外は村よりも危険だぞ?」

「……記憶は正直、どうでもいいんですよ」


私がそう言うとレボルトさんは驚いたようだったが、そのまま黙って話を聞いてくれた。


「私の記憶の始まりはこの村からだし、それでいいと思っています。記憶が戻った結果この村でのことをどこか遠くに忘れてしまうのなら、思い出さなくていいです。 それでも、どうしてもこの世界を見て回りたい……自立したいんです」


そこまで言ってレボルトさんを見ると、彼は先ほど見た笑い方とは違う穏やかな顔で微笑んでいた。


「そう言うことならわかった、責任持って街まで送ってやるよ」

「よろしくお願いします、レボルトさん」


そして彼は私の頭を握手の時と同じようにわしわしと撫で回した。

これまた握手と同じように力が強く、とりあえず何も言えずに首が痛まないように祈るしかなかった。

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