3 私は魔法を使えないが石は爆発した


この世界には『魔法』が存在する。

まさにファンタジーの代物、誰でも一度は憧れを持ったことがあるはずだ。

それは私も同じで、初めて村の人達が料理をしている時に魔法で火をつけている所を見た時は目を輝かせて子供のようにはしゃぐのでおばさん達に笑われてしまった。

この世界では個人差はあれど人は皆、魔力を持って生まれてくる。


使える魔法のレベルは大きく分けて三つ、初級・中級・上級だそうだ。

初級魔法は割と誰にでも習得が可能、中級魔法も努力と素質次第だそうだが上級魔法を使える人間は少ないらしい。

火・水・風・雷・土・光・闇の七つの属性があり、更には個人で相性も存在する。

例えば火の魔法は中級魔法も使えるが、他は初級魔法しか使えないなんて人も勿論いるし、逆に全てが得意という天才も存在するのだ。

主に属性を使った魔法の他にも怪我を治す治癒魔法、結界を張る防御魔法etc……多種多様な魔法が存在する。


――ちなみに、以上の知識は、村長の娘サーシャが教えてくれた。


サーシャとは歳が近いこともあってすぐに仲良くなり何かと世話を焼いてくれて、度々彼女の家にお邪魔してはこの世界のことや魔法のことを教えてもらっている。

余談だが、この世界の文字を私は何故か読むことができた、これが異世界によくある特典というものなのだろうか。


そんな友達でもあり、先生でもあるサーシャの部屋には沢山の本がありこの部屋にある本を読むのが私の楽しみの一つとなっていた。

彼女の持つ本の種類は様々で子供向けのお伽話や童話から難しい魔法の本まで、とにかく色々な本がある、ちょっとした図書館のようだった。


「サーシャの部屋はいつ見てもすごいねぇ」

「ありがとう。私の数少ない自慢なの」


彼女は回復魔法が得意なようで、よく子供達の怪我を治してあげていた。

医者のドニ先生のところで手伝いもしているらしい。

美人で優しいまさに白衣の天使だ。こりゃ村の男性陣の密かな憧れにもなる。

……鼻水垂らして泣いていたことを差し引いてもお釣りがきますね。


「そういえば私、ナナシが魔法を使う所見たことがないわ」

「あー……」


そういえば魔法を使ったことがない、確かに。

魔法に関する基礎の基礎みたいなことは知っているが使い方がいまいち分からないので試したことがないのだ、ということをサーシャに伝えると彼女は驚いていた。


「まぁ! そうだったの?」

「うん……よかったら何か教えてくれない?」


私がそういうと彼女は「勿論よ!」と言って――


「じゃあ、まずはこれね――『フレア』!」


そう唱えると彼女の手の平に赤く燃える火の玉が現れた。

「おおー!」と歓声を上げると彼女は照れ臭いのか少しはにかんでから火の玉を消した。


「今のは炎の初級魔法よ、やってみて!」


「イメージとしては体の内側にあるエネルギーを手の平の上に火の玉の形で具現化させる」らしい。

正直あまり自信はないのだが、言われた通りにエネルギーを手の平に集める。

目をつぶって集中、そして「『フレア』!」と唱える。


――が、何も起きなかった。


サーシャは首を傾げて「おかしいわねぇ」と言う。

もしかして炎とは相性が悪いのかもしれない、と言うことで他の属性も試したのだがどの初級魔法・回復魔法・防御魔法も発動しなかった。

神様か誰かは知らないがちょっと酷くはないだろうか?

私もチートっぽいことやってみたかったぞ、まさかこの世界で本当に魔法も使えないのだろうか。


「うーん……魔力が無いってことはないと思うんだけど……」


サーシャと私はソファーに座ってとりあえず休憩としてサーシャの用意してくれたクッキーと紅茶をいただくことにした。

クッキーはサーシャが焼いたものでサクサクしていてとても美味しい、マフィンも木の実がふんだんに使われていていい香りがするし……もう最高です!

私がお菓子に舌鼓したづつみを打っているとサーシャは急に立ち上がって私の手を取る。

マフィンを口に含んだままなので喋れない私は目を瞬くことしかできない。


「ちょっと、出かけましょう!」






△▼△▼△▼△▼△▼△▼






サーシャに連れてこられたのは村の近くの野原だった。

ここは子供達の遊び場で私も何度か来たことがある……でもなんでここに?

しかし、肝心のサーシャは「ちょっと待ってて」と言って私を置いてどこかに行ってしまった。


……え、まさかの放置プレイ?

特にすることも思いつかないので体育座りをして遠くを見る。

今日は雲一つ無い晴天である。


――自然が豊かだなぁ。


ここでの生活にも思いの外早く慣れてしまったし、今ではここの方が心地良いように感じる。

でもここで一生を終えるのも何だか、すごく勿体無いことをしているように感じてしまう私は贅沢者なのだろうか?

折角なのでもっと広い世界を見てみたいなぁ――なんてことを考えていると背後から「ナナシお姉ちゃーん!」と私を呼ぶ声がした。

振り返ると、そこにはサーシャと三人の子供達が手に何かを持ってこちらに歩いてきた。


私の所まで来るとサーシャは私にある物を手渡す。

これは……石?


「これはマナタイトと言う石なの」


よくよく見ると普通の石よりも少しツルツルとしている、言うなれば「河原で稀に見つける綺麗な石」だった。

これをどうするのか。

子供達も何個か持っている……これを使って遊ぶのだろうか?


「これはね、こうやって使うの……よっ!!」


言い終わるが早いか、サーシャは石を遠くに投げる。


――すると石が空中でボンッと音を立てて《爆発》した。


何が起こったのか。

子供達は「さすがサーシャお姉ちゃん!」「すげー!!」「かっこいい!」と歓声を上げている。

突然の大きな音と石が爆発したと言う出来事の衝撃に頭が追いつかず、驚きのあまり声を失っていると「じゃ、ナナシも」と言われて勢いよくサーシャを見る。


「無理です!」

「大丈夫よ! マナタイトは魔法を吸収して爆発する特殊な鉱物でね、子供達もやっている訓練みたいなものよ」


説明しているサーシャの後ろでは子供達が石を次から次へと投げている……が、爆発は先ほどのサーシャよりもとても小さかった。


「体力と同じで魔力にも限りがあるから、あの子達みたいに子供の頃から沢山魔力を使うことで鍛えるの」


「ほら! ナナシも!」と急かされて、とりあえずマナタイトに魔力を込めるイメージをする。

魔力がなければ爆発しないらしいし、ここまできたら引き下がれないのでやるだけやってみることにした。

いつの間にか子供達は魔力が切れていたようで、私の方に視線が集まっている。

意識を集中させると何となく、何となくだが体の内側から石にエネルギーが流れている気がするので、適当なところで「ヤケクソだー!」と叫んでマナタイトを投げた。

遠くまできちんと飛ぶか自信がなかったが、思っていたよりも遠くまで飛んで安心した。


――のもつかの間。


ピカッと光ったかと思うと、とんでもない爆発と爆風がやってきた。

私とサーシャはよろめいただけだったが、子供達の何人かは尻餅をついたりしている。

大・爆・発……である。

サーシャの時とは比べものにならない位の爆発だった。

その場にいた全員が爆発の方を見たまま、鳩が豆鉄砲――いや、バズーカを食らったような顔をしていた。


「おい大丈夫かー!!」

「何があった!?」

「何だ今の爆発は!?」


背後から村の人々の声が聞こえる。

私はこの状況を一体全体どう説明すればいいのか、頭を抱えた。

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