第6話 再来


 突如として、衝撃音が鳴り響く。


 それはレイトが修行を始めてから約一ヶ月後の出来事。

 すっかり油断し切っていたミルス村の皆は、突然の事に驚く。


 衝撃音を聞き、何が起きたのかと慌てて家を飛び出す村人。

 そこにはアライズなど学校の生徒達の姿もあったが、レイトだけはリスアのお見舞いに行っていてこの場にはいなかった。


「おい、これってまさか……」


 クラスメイトの一人が怯えながら声を上げる。恐らく皆が今思っていることは同義だ。


「えぇ……彼ら、でしょうね」


 アライズは表情を変えず、だが内心は不安になりながらも言葉を発する。

 その彼らは既にこの村の警備兵と戦っているのか、連続して衝撃音が鳴り響く。


 ミルス村は以前の襲撃を受け、警備兵を増員し更に守りを固めていた。

 出来ればそこで食い止めてもらうのが一番だが、そう上手くはいかないであろうとアライズは考える。


 レイトやアライズなどクラスの皆が修行をして強くなったが、それは相手にもその期間があった事を示しているのだ。


 その為何かしらの対策を講じてきている、と考えるのが必然であった。

 そして、その予感が的中したのか、悲鳴が聞こえてきて、それは段々と近くなっていく。


 恐らく警備兵が突破され、村人が襲われているのだろう。


「おい、どうする!?」

「というか、今レイト君いないんだよね? それ言えば帰っていったりしない?」


 クラスメイトが希望的観測を打ち出し、アライズは冷静に意見を述べる。


「無いでしょうね。レイト君目当てだとしても私達は邪魔でしょうから。排除してからレイト君を捕まえると思います」


 やっぱりそうか……と皆が静まり返った所に一人の声が響く。


「戦うしかない」


 そう発したのはかつてレイトを虐めていたあのクラスメイト。


「あいつが……レイトが来る前に終わらせれば良いだけだ。俺がこんな事言うのは調子いいかもしれないが……」


 一息吸い、言う。


「レイトを守ろう」


 予想だにしていなかった言葉に皆が驚き、流石のアライズも目を見開くと、驚きの表情を浮かべる。


「あぁ! そんなの当然だろ!」


 クラスメイトが横に立ち、自分の左の掌に拳をぶつけ、やる気に満ち満ちているといった様子を見せる。

 それに乗じて皆がそれぞれ戦闘態勢に入り、二人組が襲ってくるであろう方向を向く。

 すると、少し先で能力が地面に衝突し、土煙が巻き起こる。


「来るぞ!!」


 声が響き皆が警戒すると、土煙からグロウとプルーフが現れた。

 雰囲気が重々しいものになり、独特の緊張感と恐怖が湧いてくる。


「お前達に聞く……レイトはどこだ?」


 その雰囲気の中グロウが口を開く。低音の声が響き皆が身構えた。アライズは一歩前に出て答える。


「教えた所で……私達を倒すのは変わらないんでしょう?」

「ホゥ……そうかお前は……」


 どうやらグロウは顔を覚えていたようで、思わず声を漏らす。


「分かってるなら、話は早い! テメェら全員ぶっ倒してやるよぉおおおああはハアハハハハハ!!」


 プルーフは狂ったような笑い声を響かせながら両手に闇を作り出す。


「皆さん! 散ってください!!」


 アライズは後ろにいる皆にそう命令し、散り散りになる。

 皆が一箇所に固まっていては良い格好の的になるだけだ。


「喰らえぇええエエエアアアアアアァアアアアア!!」


 闇とそれに対抗する能力が激突し、轟音がミルス村全体に鳴り響いた。








「うわっ!と」

 馬車が揺れる。

 もう何度目かという馬車の振動にレイトは思わず声を出し、手すりに掴まる。

 馬車には最近頻繁に乗ってはいるのだが、どうも突然来るこの揺れには慣れる事が出来ないでいた。


 この原因はミルス村からファリアへと行くまでの道が舗装されていない事にある。

 今回のように誰かが入院した時など以外に立ち寄る機会が無く、わざわざする必要もなかったのだ。

 そんなでこぼこした地面を馬車が走っていると。


 僅かにではあるが何かしらの衝撃音が聞こえた。


 それは遠くから響いてきているようで、ハッキリとは認識出来ない。

 もしかして聞き間違いだろうか、と思い直して、だが再び鳴り響く。


 レイトはどこか嫌な不安を感じていた。

 もしかして、と考えが一度でもそこに至ってしまうと急激に不安は加速する。


 出来れば、思い違いであってほしい。

 その願いをまるで掻き消すように衝撃音は連続してレイトの耳に届いた。







 再び能力を使い、闇を打ち消す。

 その隙にグロウが近づいており、能力で作り出した剣を振るってくる。


 辛うじてそれを避け、反撃しようと水を飛ばすが白い膜のようなものがグロウを包み、水が打ち消されていく。


 辺りには既に大多数のクラスメイトが倒れており、呻き声を上げる者や気絶しているのか静止している者もいた。

 今立って二人組と相対しているのはアライズと虐めっ子だった少年だ。


 だがその少年の息も絶え絶えになって来ていて、限界が近い事は誰が見ても分かることだった。


「クッソぉおおおおおぉオオオオオオオオ!!!!」


 少年はそう叫び、能力を使おうと腕を振るうが、その手前で吹き飛ばされる。

 地面にうつ伏せの状態になり、立ち上がろうとするが体が言う事を聞かないのか、そこから復帰は出来そうも無かった。


 甘く見すぎていたかも知れませんね……

 

 心の中でそう呟く。


 無論、二人の強さは前回の襲撃時に知ってはいた。だがよく思い返してみると、プルーフの強さしかほぼ知らない事を思い出した。


 一応、リスアに二人の事を聞いてはいたのだが、リスアもプルーフの事は良く知っていたがグロウの事はあまり知らない様子であった。


 言っていたのは、グロウは様々な能力を持っていて、それらを適切に使ってくる。という事。

 間違いなくグロウの方が厄介な相手だと言う事だ。


 それは実際戦ってみると思い知る事実であった。


 プルーフは独特の怖さや攻撃の威力、範囲は強大だが、攻撃そのものは意外と単調で読みやすく、回避などが安易に出来たが、その避ける場所を予測してグロウが攻撃を放ってくる。


 それは二人の連携でそうしているというよりも、グロウが一方的にプルーフの動きを読みそこに合わせている、といった印象を受けた。


 この場合ひとまずプルーフから倒すのが先決だと思い、先程から隙を縫って攻撃を繰り返しているが、やはりグロウが読んでいて的確に防いでくる。

 そのせいで徐々に体力は削れ、能力のエネルギーも残り僅かとなっていた。


 何か良い案はないかと考えるが、何も浮かばず負けが頭を過ぎる。


 いや……まだだ……まだ諦めてはいけない……!


「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながらそれでも攻略の糸口を掴もうと脳を、足を動かす。


 ­「しぶてぇな……もう終わらせてやるよ

 」

 プルーフが闇を放つ。ギリギリで何とか避けるが、その先にはやはりグロウがいて能力を使用する。

 これも避けようとして足を動かす。

 が、足がもつれて転倒してしまった。


 何でこんな時に……!!


「や……だ……! 動いて……!!」


 いつも表情を変えずにいたアライズはもうそんな余裕など無く、決死の表情で無理矢理立たせようとする。

 だが──



「諦めろ」


 上から声が降りてきて、絶望に染まっていく。

 見るとグロウが腕を挙げ、そこに力の塊のようなものが収束しているのが分かる。


「終わりだ」



 冷たく言い放ち、腕を振り下ろす。







 その瞬間だった。



「ぐっ……!?」


 グロウが目の前から吹き飛び、視界から消え去っていく。


 代わりに誰かが視界に映り、認識すると何故か涙が溢れ出る。


 これは何の涙だろう。安心の涙だろうか。それとも嬉し涙?




「ごめん……遅れて……!!」




 アライズのぼやける視界の先にはレイトが映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る