第5話 修行


 翌日から修行が始まった。


 毎日、放課後に学校の校庭で行われた。

 内容としては、能力、すなわちレイトの速度強化を用いて攻撃を避けたり、攻撃したりといった内容だ。


 レイトは初めこそクラスメイトの能力に怯え、なかなか前に踏み出せないでいたが、力をセーブしてくれた為、徐々にではあるが修行は進んでいった。


 今まで能力と向き合った事も無かったので、上手く使いこなせず悩む事も出て来たが、それ以上に前に進めている実感が嬉しく、修行にも精が出る。


 それでもやはり挫けそうになる時は、リスアの言葉を思い出し自らを奮い立たせたり、お見舞いに行きリスアの様子を見ると共に、密かに元気を貰ったりした。


 その修行の中で判明した事がある。


 クラスの殆どが協力してくれて、様々な能力の人と修行をしたが、中でも強いのがアライズという事だ。


 アライズの能力は水を生み出し操るというものだが、何より威力が高く速度が速い。

 また、自由自在に操る事が可能で様々な方向から攻撃を仕掛け、防御も出来る。


 良いなぁ、とレイトは羨望の眼差しを向けていたが、それを見ていたクラスメイトは

「あそこまで操るには相当の努力が必要だよ、普通あんなにならないもん……」

 と教えてくれた。


 当たり前ではあるが、やはり努力しているんだなぁ……とレイトは自分と比べてやる気を喪失しそうになるが切り替え、修行に勤しんだ。







 そんなある日の事。


 いつものように修行していたレイトにある人物達が歩み寄る。


 それに気づき、顔を見たレイトは思わずぎょっとして、後ずさった。


 そこには以前レイトを虐めていたクラスメイトが、こちらを見つめながら立っていた。


 修行を始めてからは彼らが虐めてくる事は無く、安心していたのだが早とちりだっただろうか。


 嫌な不安を抱えながら視線の交換が続く。

 何故何も言い出さないのだろうか。以前は意気揚々と悪口をぶつけていたのだが。


「……」

「……」


 未だ沈黙が続く。彼らは誰一人として何も発さず、何人かは下を向いて項垂れている。

 この空気に耐えられず思い切って聞こうと、レイトが口を開こうとするその時だった。


「……すまん」


 グループの主犯格である男は一言零すと頭を下げる。続いて周りの男達も次々と下げていく。

 信じられない光景が目の前で繰り広げられ、仰天する。とても自分を虐めていた者達の行動とは思えない。


 でも、何故? 僕何もしてないよ?


 謝罪は素直に嬉しかったが、理由が分からずじまいだ。ただ修行していただけで何もしていないのに、何故急に謝られたのか。


「俺達……ここ数日お前の姿を見てたんだ」


 その理由を主犯格の男が説明しだす。


「それで……お前は凄い立ち向かう努力をしていた。それを見てたら……情けなくなって……」


 話しながら反省しているのか、頭がどんどんと下がっていき、視線が地面にまで落ちる。


「だから……許してもらえないかも知れないが……ごめん」


 再度頭を下げ、周囲の男達もごめん、と復唱する。

 それを見ていたレイトの目には涙が零れ出ていた。

 今までの悔しく、辛い出来事が甦る。

 レイトはまるで長年かけられていた呪いが解かれたような感覚に陥った。


「俺達もごめん!」

「わ、私達も!」


 すると他のクラスメイトも何故か謝り出して更に驚く。


「俺達見て見ぬ振りしてた、お前が苦しんでいると分かっても、自分が傷つきたくなかった……」


 この場にいる全員が頭を下げ、レイトだけが涙を流して立っている、という異様な光景が広がる。

 どうやら皆、助けたい気持ちはあったようで、でもやはり怖かったらしい。

 レイトは今そうして謝られただけで嬉しく、もう恨みや憎しみは無かった。

 そして、代わりにある提案をしたのだ。


「じゃあ僕の修行を手伝ってくれない?」



 それから、クラスメイト全員が修行相手となった。

 虐めっ子だった彼らに怯えていた人達もいたが次第に打ち解け、クラス全員の仲も良くなっていった。


 彼らは能力はなかなか強く良い修行相手になってくれて、レイト自身も、そしてクラスの全員が、この修行によって強くなっていった。



 あの日、教卓に立ち、勇気を振り絞ったレイトの行動が皆の気持ちを、行動を変えたのだ。



 一人の少年が臆病から脱却し、勇気を持つ者として周りに認められた証であった。


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