第2話 急襲

 翌日──


 天候は無事に晴れ、空一面に綺麗な青色が広がっていた。

 時刻はまだ昼。レイトは村の端にある公園へ来ていた。


 ここは長年使用されていた公園で、古びた遊具などが並んでいる。

 今やこの公園を使うものは無く、皆、新設された公園へと移っていった。


 年季が入ったベンチに座りながら、青空を見上げ、昨日の事を思い出していた。


 アライズに臆病者と言われ悔しい思いをした事、逆に先生に強くなろうと言われ嬉しい思いをした事。

 そして、トラストに待っててと言い、強くなると誓った事。


 今までの自分からやっと一歩踏み出せた様な気がして、心が喜びで波打った。


「ごめーん! 遅れた!」


 声がレイトの耳に飛び込み振り返ると、走りながらこちらへ向かってくるリスアの姿があった。

 近くまで寄ると結構走って来たのか、肩で息をする。


「あの……大丈夫ですか? 少しくらい遅れても大丈夫ですよ?」

「ううん、良いの良いの。いや、何か寝坊しちゃって、ごめんねー。じゃあ……早速始めよっか!」

「は、はい!」


 勢い良く返事をすると、リスアを真っ直ぐに見据え頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


 その時、ミルス村に衝撃音が轟いた。





「おい、いつまで歩くんだよこれ!」


 一人の男が怒り、声を上げる。もうかれこれ20分は歩いただろうか。


「黙れ、もう少しで着く。」


 そう発したのはがっしりとした肉体を持つ大男。

 若くは無いが、そこまで歳を取っているわけでも無かった。


「まったくよー、早く暴れさせろよー」


 隣の男の言葉に、無表情に大男──グロウはうんざりとした。

 といっても、これも毎度の事なのでこうなるだろうとは予測していたが。


「あーあ、魔獣も出て来ねぇとかどんだけド田舎なんだよ……狩りてぇな……」


 男は両手を頭の後ろで組み、体を揺らしながら歩く。相当歩くのに飽きているようだ。


「おい、プルーフ。見えてきたぞ。」


 グロウは正面など見ずに歩いている男──プルーフに声を掛けた。


「おっ、やっとか! よし、暴れるぜぇ……」


 プルーフは両手の指先を動かし、不気味な笑みを浮かべる。

 これはプルーフのいつもの癖で、必ず戦闘前には両手の指をわなわなと動かす。


「プルーフ、分かっているな。くれぐれも単独行動するなよ。」


 今にも暴れ出しそうなプルーフに怒気を帯びた声でそう釘を指す。


「分ーかってるって! 言う事聞きゃいいんだろ?」

「……あぁ。」


 本当に分かっているのか、と不安になったがそうこうしている間に村の入口が近づいてくる。

 木で作られた小さな門が設置してあり、その上方にミルス村と書かれてあった。


 ここは先程プルーフが言ったようにかなりの田舎で、有名なものなど何も無いような村だ。

 そんな所へ来た理由はたった一つ。ただ仕事を遂行する為だ。


「よし、こちらから入るぞ。無駄な戦闘はなるべく避けるように……」


 村の入口から横へと歩き、木のバリケードの上から入る。そのつもりであった。


「イリィィヤッホォォオオイ!!」


 グロウの声を引き裂いて、プルーフが奇声をあげ村へと入っていく。


 こちらの作戦を聞かないプルーフに、しかしこうなることは予想していたのか、グロウはやはりか……と頭に手を当て、ため息をついた。

 そして特に焦る様子もなくゆっくりと村へと入る。


「お、てめぇがここの警備兵かぁ?」

「な、何者だ!入門証を見せろ!」


 警備兵は突然奇声をあげながら入ってきた男に慌てながらそう尋ねる。

 村や街に入る時は入門証という紙が必要であり、それが無ければ入ることは出来ない。


 そういう事もあり正面からは入りたく無かったがこうなっては仕方ない。


「よし……やれ、プルーフ。」


 グロウはプルーフに冷静に指示を出す。


「言われなくても分かってるぜぇ! こいつが俺の入門証だァアア! アヒャハハハハァアアア!!」


 そう奇声をあげ、暴れられるのがよっぽど嬉しいのか狂気の笑みを浮かべていた。

 両手に闇が立ち上り、プルーフは両手を警備兵へと向け振り抜く。


 瞬間、闇は警備兵を襲い辺りの地面に衝突して轟音を奏でる。

 これで確実に入ったのが村全体にバレただろう。静かに素早く遂行しようと思っていたのが台無しだ。


 グロウは表情にこそ出さず、心の中では面倒くさそうにしながら、プルーフに声を掛ける。


「まず、標的を探す。村人に聞きに行くぞ……いや、その必要はないか。」


 音に気付いた村人達が寄ってきて、二人を見るなりそれぞれが能力をこちらへ向け放った。


 プルーフはそれに対し臆することなく飛び出すと跳躍し、上空から村人達を覆う程の闇を作り、放つ。

 一方、グロウへ能力が襲い掛かるが、それは体に衝突する前で、白い壁のようなものにぶつかり消滅した。


「ぐわあぁあああああああ!!」


 闇が村人達を包み込み、それに耐えられず村人達は悲鳴をあげた。

 だが、プルーフが威力を制御したのか、意識は失っていないようで、そのうちの1人に聞く。


「おい、レイトという子供は今どこにいる」

「レ、レイト……? 知らねぇな……今日は学校休みだからな……」


 苦しそうに話す村人に嘘をついている様子は無かった。そんな余裕もないのだろうが。

 二人は向かってくる村人達を能力で倒しながら、レイトを探し回る。


 その時、炎が二人の視界を覆い尽くし襲い掛かる。

 二人は能力を使い防ぐと、目の前には炎を纏った一人の女が立っていた。


「あなたたち、何者ですか!」


 急いで走って来たのか、息を切らしながら叫ぶように言った。


「……おい、女。レイトという子供を知っているか?」


 グロウが聞いたその瞬間、女は目を見開き、驚いた表情を浮かべる。

 どうやら知っている様子だ。


「知っているようだな。では居場所まで案内してもらうぞ。」

「そんな事、村を襲ってきたあなた達に言うと思いますか?」


 女は炎を更に立ち上らせる。

 その炎は巨大で女の能力が強大な事を示していた。


「やっと楽しめそうだな!アヒャヒャハハハハハハ!!」


 それを見て嬉しそうにプルーフは声を上げる。先程まで手応えがない村人を相手にしていたから余計にだろう。


「プルーフ、その女は居場所を知っている。殺すなよ」


 やりすぎないようにプルーフに忠告をし、自身も戦闘態勢に入る。


「分かってんよ! まずはこいつからだァアア!」


 闇を両手に作り出すと更に量を増やし、色はより濃くドス黒くなっていく。

 プルーフがそれを放つと、更に巨大な紅蓮の炎が闇を飲み込んだ。


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