責任

 皆さんは見たことがありますか?


「えぇっと、久しぶりだね舞?」


後ろに般若のオーラを背負う人を…


「久しぶりじゃないわよ!!全部篤人から聞いたからね!?ほんとに何にも言わないで好き勝手やってるみたいじゃない!一言なにか言ってくれてもいいんじゃなくって!?」


 畳みかけるような文句の嵐にシンは苦笑いをする。


「とりあえず、そこにあるお茶でも飲んだら?」

「うるさい!今は私がしゃべってるの!」


 ここから十五分ほどかけて舞の説教が続きようやく舞が怒り疲れたのか少し落ち着きを取り戻した。


「とりあえず今どこにいるの?」

「今はちょうど黄皇館に帰ってきたところだけど」

「じゃあ、今から行くから」

「え、それは」

「断ろうとしても駄目だよ。私以外がだめでも私は絶対に行くから」


 食い気味でそう答えた舞にシンはため息をこぼす。


「分かった。来ていいけどその代わり舞だけな。残りは自分の試合に

「私も行かせてください!」


 シンが話を切り上げようとすると涼香がそれに口をはさむ。


「駄目だと言ったら?」

「それでも行きます」

「俺は忙しいんだ。理由もないのにただの文句を直接聞く暇なんてないぞ」

「それならシンさんは私たちに理由を説明せず私たちに迷惑をかけました。なら、チームメイトの私にもシンさんに迷惑をかける権利はあると思います」


 シンがデバイス越しに涼香の目をうかがうようにじっと見つめて再びため息をつく。


「なるほど。目には目を。歯には歯を。責任には責任をか。わかった。じゃあ、舞と涼香だけ今から来い。受付の人には話を通しておくから」


 そういうとシンのデバイスからドアをノックする音が聞こえ、シンはそれにこたえるとまた後で、とだけ言うとすぐに通信を断った。


 舞は何度目かのため息をつく。


「舞ちんお疲れだねぇ」

「ほぉんっとあなたの弟はぁぁ!」

「いひゃいひょはいひん(痛いよ舞ちん!)」


 一旦、花奈のほっぺをつまんでぐりぐりしながら鬱憤を晴らす。


「まぁ、いいや。涼香ちゃん。行くよ」

「は、はい!」


 舞は怒りで肩で風を切りながら控室を出ていく。


「あれは相当怒ってるねぇ」

「やっぱそうっすよね」

「うん。あれは逆らえないわ…」


 花奈、煉、雫は舞の形相に恐れをなしながら控室から出ていく舞と涼香を見送る。


「まぁ、私たちには何もできないから約束を果たしに行けるよう今から作戦を詰めなおそうか」

「そうですね。あ、花奈先輩。決勝行ったらシンに全員で一発ずつ殴るのなんてどうっすかね」

「お、それいいね。あの無駄にプライドの高い君らの同級生さんには一回私たちの鬱憤を払わせてもらわないと」


 この時、シンは悪寒を感じたとかいないとか…


__________________

「黄皇館までお願いします」


 舞はタクシーを捕まえ目的地を伝える。

 タクシーが走り出すと運転手が気さくに話しかけてきた。


「お客さんも黒闢祭の選手ですか?」

「え、あ、そうです」


 唐突の質問に戸惑いながらも舞は答えた。


「今回の黒闢祭はひと悶着あったみたいですね」

「そうですね」

「昨日乗ったお客さんが言ってたんですけどね、今通っている通りじゃないもう一本のほうを封鎖するらしいんですよ。あと、住民の避難が行われているそうですね」

「それは確かな情報ですか?」

「そりゃそうですよ!昨日乗ったお客さんっていうのは篤人さんですから」


 なるほどね。シンと裏でつながってた篤人ならそういう情報を持っててもおかしくないか。それにその情報をわざと人と話す機会が多いタクシー運転手に話すところがいかにもシンがやりそうな感じする。


 そして、そうこうしている間に黄皇館に着いた。


「ありがとうございました。いい情報でした」

「いえいえ、またご利用ください」


 そういうとタクシー運転手は車を走らせ去っていった。


「いい?涼香ちゃん。多分、今日シンにあったらまた会えなくなるだろうからちゃんと文句言うんだよ」

「はい。ちゃんとタクシーの中で言う事は考えてきました」


 二人は決意を固くし、ロビーに行く。


「すいません。牙龍院シンのいるへやに通していただきたいんですが」

「あ、白夜舞さんと青矢涼香さんですね。彼は三階一番奥の会議室におりますのでご案内します」


 そういって受付の女性が立ち上がろうとすると「いや、いい」といって後ろから赤覇院火雷が現れた。


「さ、さようですか…。それではお願いしてもよろしいですか」

「おう、まかせなさい!」


 ガタイのいい赤髪の獅子が後ろから大きな声を張り上げる。


「舞くんは何日かぶりだな!あとは青矢涼香くんだな。黒闢祭での活躍はしっかり俺の耳まで届いてるぞ!今後も期待してるぞ!」

「は、はい。ありがとうございます」


 涼香が困惑気味に返事をすると「さぁ、あいつは三階にいるからさっさと行ってしまうか!」と言いながらどしどしとエレベーターホールへと近づいていく。


「要件は聞いているぞ。まぁ、いろいろ思うところはあるだろうがあいつを許してやってほしい。あいつはあれで完璧人間ではないからな」


 エレベーターを待っていると火雷は表情を変えずそう言う。


「大丈夫です。私たちも事の真相は聞いていますから。もうすでに許してはいます」

「ほう。では、なぜあいつに会いに?」

「二人で文句を言ってやるためですよ」


 舞がニヤッと笑いながら返すと火雷は大笑いする。


「うん。面白い。実に面白い。やっぱ若もんはそうでないとな!」


 ガハハと笑いながら到着したエレベーターに乗り込み、舞と涼香もそれに続いて乗り込む。


「確かあいつは三階の会議室だったか」

「はい。でも、なんで会議室に??火雷さん、シンが今何やってるか知ってますか?」

「まぁな。あいつはあいつで色々抱えてんだ。まぁ、最近では人間らしくなったていうか面倒くさくなったっていうか。振り回されるこっちの身にもなってほしいもんだ」

「本当ですね」


 そんなことを話していると三階の到着の音と共にドアが開くと目の前にはシンがいた。


「お、来たか。っていうか火雷さんも一緒だったんですね」

「おう、たまたま下であったからな。こんな試合の最中に舞くんが観戦を放棄してまでここに来るなんてシンに用があるくらいだろうと思ってな。ついでに一緒に連れてきたんだ」

「なるほど。わかりました。じゃあ、十五分くらいどこかでちょっと時間つぶしててもらってもいいですか」

「いや、ここにはもう一つ用があってきたからな。そっちを済ませてからまた来るよ」


 シンが「了解です」というと火雷はシンの肩をバシッとたたいて踵を返してドシドシと来たエレベーターに戻って行った。


「じゃあ、行こうか」


 シンはそういうとある一室に向かって進みパスワードを入力すると会議室の扉があいた。そこには、膨大な書類の山とどこかしらの地下の立体図のホログラムが放置したままになっていたがそれに気が付いて意識を向けたときにはホログラムは消え書類はすぐに片付けられてしまった。


「よし、じゃあ要件を聞こうか」

「でもその前に今の地下の立体図はこの国の地下なの?」

「あぁ、それが?」

「私たち、タクシーでここまで来たんですが運転手さんが篤人さんから大通りを一本閉鎖するみたいじゃないですか。それと何か関係があるんじゃないですか?」


 シンは舞と涼香の目をじっと見つめため息をつく。


「あぁ、だがまずは当初の目的を果たそう」

「それもそうね。シン、あなたとんでもないことやってくれたわね」

「そうだな。篤人とそのチームメイトにはひどい事をしたと思っている」


 シンが申し訳なさそうに目を伏せる。


「違います。私と舞先輩が言いたいことはそういう事じゃありません」


 涼香がシンの目を覗き込みながら言う。


「私たちが言いたいことはなぜ相談一つなくあのような行動を取ったのかということに怒っているんです」


 しかし、その言葉にシンは反応しない。


「やっぱり、気にしてる?」


 舞がそういうとシンは再び深くため息をつく。


「そうだな。うん。気にしている。あれは…忘れられん…」


 シンは椅子の背もたれに寄りかかり外の無垢な純白の雲を見上げる。


「今までの鍛錬は無意味だっただろうかと…自分は自分の責務をしっかり果たせているのかと…自分の目標は自分の手に余るものなのかと…あの一件以来『間違っていない』と言われたりすると考えてしまう」


 シンは外から目を離し舞と涼香へ視線を移す。


「俺の考えていることは傲慢だろうか?」


 シンの迷いを聞き届けると舞がシンの前まで近づく。そして、「えい」と短い声と共に舞のチョップが振り下ろされる。


「あのねぇ、あなたは人間性を取り戻したかと思ったら考えすぎなのよ。あなたが戦場にいたころ、あなたを戦場に取り残して死んでいった仲間はあなたの剣に希望を託し、彼女はあなたの剣に救われたのよ。それが最後にどういう結末であれね」


 舞がシンにビシッと指をさす。


「いい?よく聞きなさい?あなたは今までどれだけの敵を屠り、味方を失ってきたか、私はその一端を戦場で見た。だから、私はあなたを尊敬はすれど恐れはしない。だって、あなたは誰よりも味方のために戦果を上げてきたことを知ってるから。でもね、人間は一人では生きられないものよ。戦場ではあなたの場合分からなかっただろうけど」


 突き出した指をシンの額に当てる。


「私たちを頼りなさい。あなたは頼っているつもりでもそれは背中を預けているのではなく背中に味方を置いて少しだけ注意をほかのことに割いているだけ。でも、私たちの言ってることはそうじゃない。あなたの一人の強さには私たち全員の力が届かないとしても信じて背中を私たちに任せなさいと言ってるの」


 シンが目を丸くする。


「長年戦場にいたあなたの習慣はそう簡単には覆らない。それは分かってる。でも、それを続けていると今回のようなことがたびたび起こってあなたの望みどころかあなた自身を滅ぼしてしまう。だから、シン。もう一度言うからよく聞きなさい。私たちに背中は任せなさい」


 そう言い切ると舞は「言いたいことはそれだけ」といい軽くデコピンをし部屋を出ていった。


「シンさん…」


 取り残された涼香がシンに呼びかける。


「シンさんって思ったより面倒臭い性格してますよね」


 そういい放つ涼香も部屋の扉を目指しドアノブに手をかけたところで立ち止まる。


「舞さんのいう私たちは分かりませんが少なくとも私と舞さんはシンさんをずっと待っています。なので、少しずつでいいです。少しずつでいいのでシンさんの背中の温度を感じさせてください」


 そう言い残すと涼香は部屋を後にした。


「少しの警戒をほかに回してるだけ…か…」


 言われてみると気にしたことはなかったがしっくり来た。


 今日何度目かのため息をつくと通信デバイスが震え、そこには舞からのメールが届いていた。


『面倒くさいシンへ

あなたのしたことはちゃんと自己責任で自分ひとりで清算しなさい。

私たちは知らないわよ~』


 フッと笑うとメールに続きがあることに気づく。そして、下にスクロールしていくと舞と涼香があっかんべをしている写真が添付されていた。


「やれやれ。これは戻った時が大変そうだな」


シンはもう一度白い雲を見て目を細めた。






















































































































































































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