答え合わせ
「おめでとー!」
私と涼香ちゃんが控え室に着くと一番最初に出迎えて、「おめでとう」と言ってくれたのは花奈と雫ちゃんと煉君だった。
「ありがとね!」
「ありがとうございます」
「にしてもさっきの試合熱かったな!あんな凄い幻術を見せられた時はヒヤヒヤしたが。いやぁ、勝ててよかった」
「それは私も思った!涼香のカウンターもかっこよかった!」
「2人とも最後はウチの流派の技で決めてたでしょー。私には分かったぞ~!」
和気あいあいしたこの雰囲気に心が安らぐ。
「花奈達は明日だったよね?」
「そうだよー!」
この場の雰囲気の通り元気よく返事をする花奈はだんだん萎れていく。
「多分…明日は勝てると思ってる。私たち3人の連携はこの2ヶ月間で仕上げられるレベルにはとうにたどり着いてて今はそれ以上の力を出せてるとも思ってる」
そして、そっと胸に手を置く。
「でも、私…足手まといかもしれない」
「そんなことは!」
「でも!……私は前回の試合で思うように動けなかった。足を引っ張ってたのは私にだって分かる」
私は苦しそうに顔を歪めた花奈をそっと抱きしめる。
花奈は苦しいに決まってる。当たり前だ。実の弟であるシンが試合で最大の侮辱をし、ここ一週間姿を見ていなく、消息さえ分からない。混乱して、不安になって、気が気じゃないのなんて当たり前だ。むしろ、今まで普通にしていた事が凄い。
「でもね、花奈」
私が花奈に呼びかけると今にも泣きだしそうな顔でこちらを見上げる。
「何?舞ちん」
「私、今シンが何をやってるか。予想はついてるんだ」
そう言うと花奈は目を丸くする。
「ほん…とうに?」
これはさっき輝夜さんから聞いた話で確信に変わった。
「うん。本当だよ。まあ、なんというかさっき確認できたって言うか今でも確信とまでは言いきれないというか」
「そっか…」
「でも、私はあってると思うよ。だってシンの事は花奈からいっつも聞かされてるからね」
クスッと笑うと少し安心したのか肩から力が抜けたのがわかった。
「じゃあ、私の予想を話すね」
そう言うと、皆が慎重な面持ちに変わる。
「まず、さっき輝夜さんから聞いたのはシンが彩月ちゃんのことを気にしてるかどうか聞いたんだけど、その答えはNoだった。ただ、気にしてることはあるらしくて、多分それは守れなかったこと自体を気にしてるんだと思う」
「守れなかったこと自体ってどんだけ理想高いんだよ…」
「あはは。確かにね。でもね、シンは自分が守れるものを全て守れるくらいに強くなるために小さいころから鍛錬を続けてきた。それは間違いないよね?花奈」
いつもの柔和な面持ちに戻った花奈が顔を上げて小さく頷く。
「それで、『守れなかったこと自体』ですか」
「うん。それでね、私は昨日な、ふとこう思ったの。シンが演技をしてるとしたらどういう状況なんだろうって」
「演技…ですか」
「そう、演技。あれが何かを目的とした演技だとする。そして、無意識か意識的にか過剰に敏感になっている警衛意識。そこでシンの行動について一つ違和感があったのを思い出したの」
「違和感ですか?」
可愛らしく首を傾げる涼香ちゃんの頭をなでなでして癒されながら話を続ける。
「そう。違和感。それは何かっていうと、ほら。私とシンってさ飛行機を降りてから一緒に車で来たじゃない。その時にシンがさ、黄道に出たときに騒がしいっていったんだよね」
「騒がしいって言ったの?」
その発言に今までへなへなしてた花奈が真剣なまなざしを無言で頷く。
多分これで花奈は事の重大さに気が付いたんじゃなかろうか。
「でも、それで決定ってちょっと弱いと思うんですけど」
「そうかな?もう一度思い出してみてよ。シンは何のために強くなったのか」
「全てを守れるほど強くなるため…でしたよね?あ…そうか」
「そう。そんなに大切にしてるのに騒がしいっていうここの国民を卑下するような言葉使うと思う?」
「じゃあ、なんでそんな言葉を?」
「あそこには何かがあるんだろうね。それも黄明さんが動くほどの大きな何か」
「だから、守れなかったことを気にしていたシンさんは私たちに関わらせまいと遠ざけた…」
シンのあの行動に説明がついた。
「にしても、シンの目標っていうか理想が高すぎて少しばかり引いてる」
「んー、そうかな。私としては着々と近づいて行ってると思うよ」
「確かに演技だったとはいえあの時の相手はこの国のトップクラスのあの3人相手だったのに一人で全然余裕だったもんね」
そんな会話をしていると扉からノックする音がした。
「なんだろ。私見てくるね」
私は不審に思いながらも扉を開ける。
「篤人くん!?」
扉をノックした人物はこの国の長である黄聖院源内の息子である黄聖院篤人だった。
「どうしたの!?っていうか、私たちが言えた義理じゃないんだけど怪我は大丈夫!?」
「あ、えっとそれも諸々説明しますので一旦落ち着いてもらってもいいですか?」
件の事件の被害者である篤人くんが来るという事は無論何か要求されるのだろう。
「まず、僕がここに来たのはシンからもうそろそろ舞さん辺りが気付いただろうからと言われたので事の真相を話に来ました」
「私の推理ターンが薄れちゃうじゃん……」
「そうかもしれませんが、で真相は気になりますし、知ってるに越したことはないと思いますよ?」
む…、後輩のくせに正論を先輩にぶつけるなんていい度胸だ。
私は涼香ちゃんにむっとした顔で手招きし涼香ちゃんを膝の上に座らせようとする。当然のように拒まれたが威圧スマイルで無理やり座らせた。
「………まあ、聞いてもらえればなんでもいいか」
驚きを通り越して早々に諦めた篤人くんは真剣な面持ちで語り始める。
「まず、事の始まりは試合前にシンから事情を聞かされ、その事の重大さから僕達はシンに協力することにしました。恐らくその重大さは舞さんの推理ターンとやらでわかったと思います」
私の頑張った推理がこんなにあっさりと流されるなんて…
「ちょっと待ってください。シンさんは試合前は私たちと一緒にいましたよ?」
「多分あの時じゃないかな。トイレに行くって言って中々帰ってこなかったじゃん」
「確かにありましたけど思い返してみるとさほど長くはなかったと思いますよ?」
私と涼香ちゃんが首を傾げていると「その辺は大して関係ないので次に進めますね」と篤人くんが無慈悲にこの話題を葬り去る。
「それで、その時に話された内容は『黄道の地下に魔物の溜まり場がある』と言われました。それでこの国を脅かすに足る脅威だから協力してほしいと」
「なるほどね。わざと負けてくれとか言われたわけだ」
「いえ。言われていたら良かったんですけどね…生憎、言われていたのは攻撃された時に演技をして欲しいとだけ言われました」
「そ、それじゃあ!?」
「はい。お恥ずかしながら全力でやってボロボロにされちゃいました」
雫が目を見開くと同時に篤人くんは頭を掻きながらはははと笑う。
さてと……篤人くんには申し訳ないけど、そんなことより
「ねぇ、篤人くん」
私に呼ばれた篤人くんが私のほうを向くと表情が引きつる。
やだなぁ、人の顔見て表情引きつらせるなんて失礼だなぁ。でも、そんなこともどうでもよくてね。
「もしかしなくても、シンの連絡先知ってるよねぇ?もちろん私たちも知ってはいるんだけどさ、まあもちろん出てくれないわけよ。さっきシンから『私たちが 気づいただろうから』って聞いたのは直接会ってではないと思うんだよね」
「つ、つまり?」
私はこれ以上脅s…表情を引きつらせないようにやさしくニコリと笑いかけながら手を差し出す。
これに観念した篤人くんは私に通信用デバイスを渡した。
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